大事なのは一瞬にも勝る一途の愛」>>「想いを渡せない」>>



あれからシナさんと友達になり、メールとかはお互いあんまりすきじゃないからそんなにやりとりはないのだけど、ときどきカフェに行ったりする仲になった。おしゃれな店の内装に美人なシナさんはぴったりマッチしていて惚れ惚れする。今にもナンパされそうな雰囲気だが残念、シナさんの前はわたしが陣取っているので隙はない。そういえば結局半助は山本シナさん、とフルネームで呼ぶという案で決まってそれで貫いているらしい。シナさんはカップを置いて笑顔で口を開いた。


「土井くんとても清々しく呼んでくるわ。悩ませたみたいで申し訳なかったかしら」
「ああ…すごく肩の荷が下りたって顔してたからね」


わたしは性格が悪い。ていうか心が狭いのだろうか。シナさんが半助の名前を出すたびに心臓が掴まれる感覚になる。…嫉妬、してるんだと思う。というか、シナさんが半助をすきなんじゃないかと勘繰っている。友達としてすごくすきなのに、そういう邪な目で彼女を見ているのが気持ち悪い。
だからシナさんもいっそ、わたしのことをそうやって見ていたら、お相子なのになあって、うっすら思ってる。でもそうするとシナさんが半助をすきであってほしいということになるから今のわたしは堂々と矛盾している。


ちゃんって土井くんととっても仲いいわね」
「……そ、うかな」


それは、シナさんの、嫉妬?


「ほんとうにただの幼なじみ?」
「え、」


シナさんもわたしを勘繰ってるのかな。


ちゃん、きっとあなたは誤解してるわ」
「え?」
「私は土井くんのことそういう目で見てないもの」


…あ、あれ…?
なんか、あれ?違う?ていうか全部見透かされてる?逃げ場がなくてキャラメルマキアートを吸った。なんか、今心臓ばくばく言ってるんだけど、まるで修羅場みたいな空気なんだけど、あれ?でも違う?
シナさんは今日も今日とて一瞬一瞬丁寧に優雅であって、優雅にコーヒーを啜る。わたしも懲りずにこんな状況ということも忘れそれに見とれた。


「土井くんはいい先生になると思うわ。私は彼の教師を目指す姿勢をすごく尊敬しているの」
「…あ、半助は、小学校の頃からそれが夢だから」
「そうなの。素敵ね」
「うん、わたしもすごいと思う」
「でもちゃんはそれ以上に、彼のことすきでしょう?」
「……うん…ごめんシナさん、疑ってた」


シナさんも半助をすきなんじゃないかって疑ってた。白状するとシナさんはまたふわりとにこりの間の笑顔で「しょうがないわ。立ち位置的に怪しいしね」と言った。客観的に物事を見ることにとても秀でている人だと思った。


「言ったでしょう?可愛い幼なじみが欲しかったって」


だから土井くんに妬いちゃうわ、と言ったシナさんに照れた。





夕焼けが彩る家路を歩いていると、ふと、わたしってまだ矛盾してるのかなあと思った。わたしは半助がすきだけど、半助を一人にしたくないという気持ちとは別物だし、後者はもっと言ってしまえば彼の周りにはいつも人が溢れている、みたいなのを望んでいる。人の善悪の善だけを選んでそうするとしたって、シナさんは善の塊だ。なのにわたしはシナさんと半助が一緒に話しているのを見て嫌だと思う。多分どの人に対しても思う。
わたし、駄目なんじゃないか。半助を一番に思いやれてない奴が、半助の近くにいるなんて、よくない。よくなさすぎる。





この道を真っ直ぐ行けば家だ、というところで名前を呼ばれた。振り返ると半助が変わらずいるので、ついわたしの視界はじわりと滲む。「…はんすけ」涙目で情けない声を零せば駆け寄って来てくれるこの人の優しさに付け込んでいるのだ、わたしは。でもそろそろ突き放されなきゃいけない。どうした、と頭を撫でてくれる彼をわたしは一番すきだというのに。


「…半助、ごめん。半助に一人でいてほしくなくて、友達いっぱい作ってほしいって思ってるのに、わたし以外の子としゃべってると嫌だと思う」
「それは……いいよ」


こんなとこまで優しく寛容しなくていいのに。半助はいろいろ損な役回りが多い。


「わたし半助の一番近くにいたいんだよ」
「うん、俺もが一番近くにいてほしい。あとの一番近くにもいたい」
「へ…?」


見上げると困ったように笑う半助がいた。


「俺は一番がすきってこと」


その言葉にさらに泣いたのは仕方のないことだろう。


ねえ世界中のみなさま、わたしはこの人を一人にしないと誓います。一生すきで居続けます。どうぞ見守っていてください。