08

早足でアパートの自宅に帰り、靴も脱がずに玄関にしゃがみ込む。明かりのスイッチはすぐ右の壁にあるけどしばらくはいらないと思った。今はとにかく、この心臓をなんとかしないと。


「……どっきんばっくんだった…」


右手で口元を覆いながら吐き出す。どうなるかと思った。家に来たいって言われたときからずっと、どうなるかと思ってた。
レオ姉たちの話で思いっきり焦った俺はとにかくを渡したくない一心で、レオ姉から教室を聞き出し彼女を待ち伏せる行動に出た。連絡は取っていたものの直接顔を合わせるのに勝るものはなく、サークルやバイトにも慣れてきたことだしこれからは積極的に会っていこうと思った。そうでもしないと、が誰かに取られてしまいそうで気が気じゃなかったのだ。
不安に飲み込まれる中、まさかからそんな提案されるとは思ってなくて思わず固まってしまった。それはどういう意味だと思考を巡らせて、もしかしてと期待して、でもただ思いついただけっぽくて落ち込みそうになって、でも照れてるってことはちょっとは男と意識してくれてるんだと思えて嬉しかった。
それなのにまさか断るなんてしない。下心なしにに来てほしいと思っていたのは本当だ。動揺は隠せてなかった気がするけれど、いつも通りを保とうと振る舞った。
不躾でごめんと謝られても俺との仲じゃんなんて軽口は叩けなかった。成就の可能性を自分から潰すことなんてできない。

とかいって、自分の部屋にと二人きりなことに思ったより緊張したから早々にゲームに逃げたんだけど。隣で楽しそうなの視線を感じながらカチャカチャと組み立て、彼女の近くにあったリモコンを受け取る際向き合う形になると、自分と彼女の近さを一層感じた。そして、なんか幸せなことだなあと、思ったのだ。少しごまかして言ったら、そうだねと返してくれた彼女を見て、余計に思った。
このままだとNGワードの本音を口にしてしまいそうで、やばいと思い切り替えた。二人用のゲームをは相当気に入ったらしく、終わったあともテンションは高いままだった。夜ご飯を食べてる間も、ゲームの感想を話す彼女はとても楽しそうだった。それを見て、今日誘ってよかったなあと思ったし、すきだなあと思ったのだった。

俺から見る幼なじみのは喜怒哀楽の表情がわりかしはっきりしていて、それでいて強がりだ。昔から漠然とだけどそう思っていた俺は初めて答えを求めたあの日、曖昧な態度の彼女にまず違和感を覚えて、強がってるだけで本音は違うんじゃないかと思った。今思えば本当にダサい期待だった。結果、追及してひどいカウンターパンチを食らい、相当ショックを受けることになったのだった。

それでも諦めることができなくて今でもこんなことを続けてる。嫌われたわけじゃないのはわかってる。だから、嫌われないように、言っちゃいけない言葉は封じ込めてはもちろん他の誰にも言わず、にすきになってもらえるように頑張ろうと、会えるときは会うようにしたりメールとかで連絡もずっと続けてきた。けど。

はあ、と大きな溜め息を吐く。それでもが振り向いてくれてる気がしない。それどころか誰かのところに行ってしまうんじゃないかって不安ばっかりだ。俺がこんなに緊張して、最後の最後までいろいろ我慢して耐えてたことに、彼女はきっと気付いてない。
嫌われたくない。けど、誰にも渡したくない。ないまぜの気持ちのせいで、どこまで踏み込んでいいのかわからない。


「……ゆるしてよ…」


俺は、すきだって言う以外に、気持ちを伝える方法を知らないんだ。