「気になんだろ」


ハッと我に返ると眼前に木刀の切っ先が向けられていた。コンビニエンスストアに寄ってから一時的な拠点にしているここはどこかのビルの屋上だ。さっきまで一角は柵に寄り掛かって下を見下ろしていたはずだけれど、いつの間に近くに来ていたのだろう。あまりに不意を突かれたため何と言われたのかわからなかった。


「え?」
「…聞いてたか?」
「ごめん」
「はあ…気になんだろって」
「気に…」


あぐらをかいて座る一角。壁に寄り掛かっていた僕はそれを見下ろしてから、空を仰いだ。関心を抱かない夜空はさっきまで考えていたことをさらに熟考するには持ってこいだった。…十一番隊の上司として、気にならないわけがない。


「一角は心配じゃないの?」
「悪ィが、まったく。つか浦原んとこなら問題ねえだろ」
「そうかもしれないけど」
「そんなんならついて来させりゃよかったじゃねえか」


それはできない。今この段階ですら僕と一角には安定した拠点がない。追い追い探すとしても今日はここで過ごすことになるだろう。不衛生だけどしょうがない。というか寝ないという手もある。でもはどこでも寝る奴だから、きっとここでも文句を言わず寝るだろう。そして風邪を引くのがオチだ。そうなる面倒が目に見えているのに連れて来させるわけにはいかなかった。「まあ」一角が口を開く。見ると彼も空を見上げていた。


「もっとも、松本んとこならもっと安心だったろうけどな。おまえの考え通り」


そうだ。だから僕はに乱菊さんを追いかけるように言おうとしたんだ。織姫ちゃんのところに行くなら女の子同士だし心配ないと思って。なのに。


「僕の意図、最初から伝わったでしょ?」
「たりめーだ。朽木にも伝わってたろうな。一護と阿散井は全くわかってねえ」
「はあ…」


察しの悪い人はすきじゃない。一護は僕に反抗しようとするし阿散井も変な提案するし。ていうか浦原さんなんてよく知らない人のところに転がり込ませるなんて何考えてるんだ。それにあっさり飛びつくとか何。
一角のもういいじゃねえかという声が耳を素通りする。もう決まってしまったことだ、けれど、納得はできていない。「弓親」呼ばれて顔を向ける。


「おまえなんで怒ってんだ?」
「は?怒ってなんか」
「心配っつーか怒ってんだろ」
「……」


部下の心配という当然の気持ちにすり替えてのことを考えている。やっぱり一角にはお見通しなのか。


が他の男ンとこに行ったからか?がおまえの近くにいないからか?」


どっちもだからこんなに落ち着かないんだ。


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