「てめえら……人の部屋の電気に何してくれんだ、コラ!」


すちゃっとベッドに着地し、きょろきょろと周りを見回す。おおお十二番隊作成の現世パンフで見た人間の部屋だ。すげえすげえこれぞ近代!ぼふっと弓親さんの隣に座り、一護を見遣ると彼は辺りを一周したあと「あれっ」と呟いた。


「さっきより一人多くねえか」
「えっそう?」
「音子のことでしょ」


弓親さんが即答する。なんだよさっき一護と会ったときわたしが来てること言ってくれてなかったのか!この人でなし!必要以上になじると「どの口が言ってんの、あとうるさい」ばこっと頭を叩かれた。普通に痛くて頭を押さえる。弓親さんてほんと殴るのすきですよねと言ってやると絶対零度の声音で「誰がすき好んでおまえを殴るか」と返された。ひどい。乱菊さんに叩かれた一角さんはおとなしくわたしの後ろの方に座ったようだ。同じく乱菊さんに殴られたライオンのぬいぐるみが床にへばりついて可哀相だったので拾ってあげる。よく見ると可愛い。さっきしゃべってたのは何だったんだ?


「そこで急遽選抜されたのが俺たちだ」
「選んだのは?」
「山本総隊長だ。藍染にやられて以来、四十六室は空席のままだ。その間の決定権は総隊長に下りて来ている。そこで、とりあえずおまえを一番よく知っているルキアが選ばれて」
「違う!実力で選ばれたのだ!」
「動ける戦闘要員の中で一番ルキアと近いってことで、俺が選ばれた。んで、隊長格以外で俺が一番信頼できる戦闘要員を選べって言われて、俺が一角さんに同行を頼んだ。そしたら弓親さんが僕も絶対行く!って言い出して、騒ぎを聞きつけた乱菊さんが面白そうだからって行きたがって、乱菊さんがどうしても行くって聞かないもんだから日番谷隊長が引率として仕方なく。出発間際にが駄々こねて加わって……て感じだな」
「ピクニックかよ」


科学は発達しすぎてその内人間の手に負えない物を作り出してしまうのではないか。そしてこのぬいぐるみが侵略を始め無性生殖の如く分裂を繰り返し手始めにこの部屋を占領し一護は身体を乗っ取られあんなことやこんなこと……「あの、く、くび…首締まってます…!!」お?ぬいぐるみが泡吹いてるぞ?異変に気付いた一護がぎょっとする。そういえば日番谷隊長いつの間にか再登場して何かしゃべってたけどもう終わったんかな。何も聞いてなかった。


「おまっ何やってんだ」
「え、ぬいぐるみと戯れて…」
「ただのリンチだそれは!早く離してやれ」


はあ、と離してやるとぬいぐるみが咳込んだ。まるで生きてるようだ。「これが義魂丸よね」乱菊さんがつまみ上げる。義魂丸?聞いたことあるぞ。この前女性死神協会で話題になった技術開発局が作り出したナンチャラで……なんだっけ?つまりあのライオンは尸魂界の物なのか。隣の弓親さんに「義魂丸て何ですっけ」と聞くとものすごく見下された。


「ここ来る前に渡されたでしょ」
「…あー、あのアヒル」
「アヒルかは知らないけど。それの中にあれが入ってるんだよ」


弓親さんの台詞は指示語が多くて意味がわからないと思われたかもしれないが「あれ」のとき阿散井副隊長がぬいぐるみから取り出して摘まんでる丸い物体を指差していたのでそれが義魂丸だというのはよくわかった。でもぶっちゃけそれが義魂丸なるものだとわかっても知りたいことは義魂丸の使用用途などなので完全な解決にはなっていない。一方、義魂丸を抜かれたぬいぐるみは白目を剥いてぴくりとも動かない。……。


「あれを食べると生き返るんですか」
「君はもっと頭を回転させるべきだよ」
「フル回転ですが」
「……。食べるなよ」
「え?」
「今のままだと噛むつもりでしょ」
「飲むタイプですか」
「そう。飲むと義骸に別の魂魄が入るんだよ。脱いだ義骸がいきなり倒れたりすると一般人に怪しまれるからね」
「なるほど」


弓親さんは冷たい物言いだけど教え方は上手いと思う。あんまり尊敬はしないけど、上司でよかったと思う瞬間である。いつも一角さんの金魚のフンみたいにくっついてるだけかと思いきや、戦闘以外での頭の使い方は多分一角さんより上手いと思う。十一番隊の事務仕事ってほとんど弓親さんがやってるんだよね?邪魔って言われてすぐ摘まみ出されるから詳しくは知らないけど何回か見たことがある。確かに隊長とか副隊長はやらなさそうだしね、どんまい弓親さん。
気付くと、義魂丸をいじっていた乱菊さんたちの話題は別に移り変わっていた。


「寝るとことかどうすんだよ。言っとくけど、ウチにはこんな人数泊めるスペースねえかんな」
「ええ〜?あたしも駄目?」
「いや普通に考えたらあんたが一番駄目だろ!つか、なんで自分はOKだと思ってんのかわかんねえ!」


そういえば結構長い滞在期間になるって一角さん言ってたな。仕事とか全然知らないしわたしは現世デビューをエンジョイすることしか考えてないからこれで給料出るのは申し訳ない気がするなあ勿論ばりばりもらうけど。よっ給料泥棒!
その間にも一護の部屋に泊めてもらうため乱菊さんが制服のボタンを外そうとしたりスカートめくったりと色仕掛けをしてて面白かった。


「わたしもボタン外せば一護泊めてくれますかね」
じゃ無理だよ」


即刻弓親さんに却下されむかついたので落ちてたライオンを投げつけてやった。


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