前にお邪魔したときと同じ部屋に通され、布団二式とベッドをお借りした。当然のようにわたしがベッドを使わせてもらえるみたいで、その横に弓親さん、一角さんと布団を並べる。寝床だけでなく、浅野宅では夕飯やお風呂や寝間着ももらい至れり尽くせりの扱いを受けていた。浦原さん家より随分と狭いお家なのに、浦原さん家並の待遇は非常にありがたかった。これもすべてみづ穂さんの寵愛を一身に受ける一角さんのおかげなので今回ばかりは頭が上がらないだろう。めちゃくちゃ丁重に扱わねば。話は変わるけど一角さんが男の割にファンシーな寝間着を充てがわれてたことについては先ほど大笑いしたので、今夜はもう寝るだけである。


「あ、ねえあんた」


トイレを借りようと一人廊下を歩いていると、居間からみづ穂さんに声をかけられた。思わず目を丸くしてしまう。みづ穂さんがわたしに話しかけてくるの珍しいなあ、恋人がいることにしてからは目の敵にはされなくなったけど、視界にすら入らなくなっていたのだ。いやはや、彼女の一角さんへの愛の重さには敬服いたすよ。
そのみづ穂さんがわたしに一体何を?尿意は一旦置いといて彼女の元へ行くと、高い目線からじいっと見下ろされる。


「あんたも一緒にやる?」
「……えっ何を」


びっくりした。全然意味わからん。ちょっと考えたけど全然意味わからん!真剣な顔して言われても心当たりなくて焦る。内心慌てるわたしに構わずずいっと顔を近づけ詰め寄るみづ穂さん。逃げるように背筋を反らすわたし。


「だから、『気の利く女であの人も骨抜き大作戦』よ!」


何それちょっと楽しそう。





話を聞いたところによると、前回間借りしたとき一角さんが知らない間に帰ってしまったのが心残りだったらしく(突然日番谷先遣隊に帰還の命が下ったせいである)、今度こそ逃すまいと一角さんのハートをがっちり掴みたいのだそうだ。その戦法が作戦名に表れたのだと。ふんふんと相槌を打ちながら、わたしたちをこんなにもてなしてくれるみづ穂さんは今のままで十分気が利いてるのになあと思う。そしてわたしに声をかけたのは、あれから彼氏(弓親さんのこと)とどうなのよ、上手くいってないなら便乗させてあげてもいいわよということだった。なるほど、と三秒考えて、自分が頑張るのはめんどくさいなと思って丁重にお断りした。そろそろ真面目にトイレに行きたかったというのもある。


ということで昨夜はお開きになったのだけれど、思い立ったら即行動な恋する乙女・みづ穂さんはさっそく翌日から実行に移したらしい。


「おっはよーーダーリン!しっかり食べてねー!」


朝、起床し三人で居間に行くとみづ穂さんが朝食の支度をしてくれていた。ジュージューと焼ける音。香ばしい匂い。わあ、と頬がほころぶ。尸魂界では見かけない鉄板の機械の上で、お肉と野菜が並んでいる。焼肉だー。さっそくいただくべく、とてとてとテーブルに駆け寄る。


「朝から焼肉かよー…」
「朝っぱらこんなもん食えるか!」


おや?イスの背もたれに手をかけたところでそんな声が響き首を向ける。いつの間に起きてきたのだろう啓吾くんと一角さんがそんな文句を述べていた。沈黙を決め込んでる弓親さんも苦笑いだ。それならばと出されたフカヒレや豚足にもツッコミを入れる一角さん。お昼に牛丼山ほど食べるくせに、意外と美食家なのか…?にわかに戦慄しながら着席し、一人焼き肉に箸を伸ばす。


「んーおいしい!」
「おまえは何一人で食ってんだ!」
「フカヒレ結構いけるよ。コラーゲン摂取」
「弓親も躊躇なく食うな!」


何食わぬ顔で向かいの席に座りみづ穂さんお手製のフカヒレを食べる弓親さん。豚足の乗ったお皿も隣に並べて満足げだ。それを見ながら、若干焦げてしまった輪切りの玉ねぎをタレにつけてガジッと噛む。焼き肉久しぶりに食べたなあ、確かに朝からガツガツ食べる胃はしてないけどお腹は十分に満たせそうだ。「もフカヒレ食べる?」「わーい食べまーす」みづ穂さんこれ作るのにどんくらい時間かけたのかなあ。焼肉の準備だけでも大変そうなのに。大変だった分味わって食べるぞー!と意気込んでありったけの肉を焼いていく。啓吾くんも溜め息をついて炊飯器にご飯をよそいに行ったから、きっと焼き肉も食べるだろう。一角さんもどうせ食べる食べる。逆に食べないわけがない。「みづ穂さんごちそうさまですー」にこにこと手を振り感謝の言葉を伝える。


「あんたたち喜ばせるためにやったんじゃないのにー…」


しかし当のみづ穂さんは不満げなご様子。肝心の一角さんにウケが悪かったので仕方ないだろう。


top|47|