日も沈んだ現在、目の前では男性陣による醜い争いが巻き起こっていた。


「ちょーーーちょちょちょちょ!!じゃ、じゃねえよ一護!!なにその、ネ〜ちょっと醤油取って〜みたいな軽さ!!」
「だっておまえ、前もこの二人の面倒見たことあんだろ。何とかなるって」
「何とかなるって?!なにその超・他人事みたいな!」


「というわけでよろしく」「久しぶりだなァオイ…」涙目の啓吾くんの両脇に回り詰め寄る上司たち。そう、何を隠そう、今は啓吾くん家前の通路で間借り交渉の真っ最中なのである。通路は人が何人も通れる広さじゃないから、わたしは一歩離れて彼らの様子を見ているのだ。啓吾くんとは顔見知りだけど、前に出てどうこうできる話ではないので静観することに決めている。浦原さん家だったら居候経験者として先陣切って交渉してたのだけど、残念ながらここに来る前に立ち寄った浦原商店は明かりはおろか、人っ子一人いなかったのだ。
というわけで頼みの綱である啓吾くん家に押しかけてるのだが、さっきまでの渋り様が嘘みたいに一角さんはいつも通りの調子だ。気に障った発言をした啓吾くんの頬に一切の遠慮なく木刀を突き刺すほどだ。この調子で強引に押し切ってここでの滞在が決まりそうだなあ、一件落着である。話はついたと言わんばかりに帰っていく一護にばいばーいと手を振る。


「ちょっと啓吾ぉ?なにガチャガチャやってんのー?」


はっ!その声が玄関口から響いた瞬間、場にいた全員の動きが止まった。みんなどことなく緊張した面持ちで、開けっ放しだったそこをおそるおそる見遣る。「うるさいよー」カラッとした女性の声が再度聞こえたのち、玄関からその人物が顔を覗かせた。


「玄関先で騒いだら近所めいわ、……」
「………」


図らずも一番入り口に近い位置にいた一角さんと彼女のアイコンタクトは必至だったろう。二人の視線が交わる。青くしながら渋い顔をする一角さんとは対照的に、彼女の表情は瞬く間にキラキラと花を咲かせた。


「おかえりなさ〜い!ダ〜リンッ!」


そんな猫なで声と共にしなしなと身体をくねらせ一角さんに擦り寄る。彼女こそ、浅野家名物・みづ穂さんである!前回の日番谷先遣隊の際一角さんに一目惚れしたらしく彼を前にするとこんな感じなのだ。このノリ懐かしいなー。「玄関の鍵は、いつも開けて待ってました〜っ」「なに平気で嘘ついてんの!なに一途な女房演じてんの!」しかし啓吾くんはツッコミ気質なのだろうか。前回はここまでじゃなかった気がするけど久しぶりに会ったら磨きがかってないか。浅野家濃いなあとしみじみ思いながら、蚊帳の外にいる弓親さんに歩み寄る。さっきまで啓吾くんに絡んでたのにみづ穂さんが出て来てからあっという間に中心から身を引いたようだ。


「何はともあれみづ穂さんのおかげで丸く収まりそうですね」
「あの子のおかげなのか一角のおかげなのか微妙なところだけどね。それにしてもこのノリ疲れるな…」
「そうですか?面白いじゃないですかダーリン」
「……覚えてたか」


もちろんと腰に手をやり胸を張る。わたしも処世術とは何たるかぐらい心得てますよ!浅野家でみづ穂さんを敵に回すのは良くない。敵意がないことを証明するにはこの設定はもってこいなのだ。
うんざりした様子の弓親さんにしばらくの間よろしくお願いしますと言うと、「だから僕もここは嫌だったんだよ」と大きな溜め息をつかれた。


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