砂浜に戻るといつの間に用意したのか「第一回海浜藝術會」というアーチ状の看板が掲げられていた。浮竹隊長と卯ノ花理事長の提案らしく、二、三人に別れて砂で作品を作って競うのだそうだ。


「折角の海なのに砂遊びっスかあ?」
「スイカ割りとか肝試しとかした〜い」


不満げな阿散井副隊長と乱菊さんにうんうんと頷く。こんな地味な遊びじゃなくて水泳競争とかの方が盛り上がるんじゃ


「優勝者には総隊長殿より金一封だぞ」
「「行ってきまーす!!」」


浮竹隊長の一言でバビュンと駆け出した。

乱菊さんは織姫ちゃんを巻き添えにして岩場の方へ行き、一角さんは阿散井副隊長と一護を誘って城を作り始めた。弓親さんはいいのかと思えば案の定いつ用意したのかパラソルの下でビーチチェアに寝そべっていて、こいつ本当に来た意味あるのかとドン引きした眼差しを向ける。一方わたしといえば、会長(と弓親さんも入れてあげる。可哀想だから)と組んで何かを作ろうと思ったのだが、広い場所を確保したはいいものの特に思い浮かぶものもなく腕を組んでいた。


ちゃん見てみて〜」
「ん?…おいしそうなカニですね…?」
「へへーんいいでしょ〜!」


どこで捕まえてきたのか小さなカニを素手で持ち見せびらかす会長。適当な感想を述べると、彼女はとたとたとどこかへ走り出した。十一番隊士として刷り込まれた「副隊長を一人にしてはいけない精神」が反射的に足を動かす。目指すは一角さんチームのところだ。


「オラララララ!!!」


製作物であろう砂の城はほとんど完成しており、当の三人は三方向からそれに頭を突っ込んで激しく掘っていた。おそらく城の門を開通させようとしてるのだろうけど、異様な光景にはドン引きパート2である。
その中の一角さんにそろりと近付くのが会長である。そして片手に持ったカニを……ああ〜〜〜!


「いたたたたた!?!!」


こんなこと言いたくないが、赤フンの一角さんはお尻がむき出しである。そこに会長のシャレにならないいたずらがお見舞いされた。つまりカニが一角さんのお尻を挟んだのである。あわわわわわなんて面白い絵面……!!助けず見ていると悶絶する一角さんがむやみに暴れたせいで砂の城は崩壊した。一日天下とはこのことか。


「どうした一角?!」
「うおああ一角さんが生き埋めに?!!」
「掘り出すぞ恋次!!」


「だーいせいこー!」わたしに向けてピースをする会長にピースし返す。副隊長のいたずらの被害はだいたい一角さんが被るのが十一番隊のお約束である。「一角?!」騒ぎを聞きつけてパラソルから出動した弓親さんから逃げるように真顔で会長の手を引きその場をあとにするわたし。怒られるのめんどくさい精神は鼻が効くのである。





ちょっと離れたところではお葬式が開かれていた。

故人は浮竹隊長だ。砂で作った棺に花をいっぱいに敷き詰め、その中で穏やかに眠る彼は自分の人生を幸せに生き抜いたことを物語っていた。いい師と友人と部下に恵まれ、我が生涯に一片の悔いなし。そう言っているかのようだ。「な、な…」その光景を目の当たりにし愕然とした表情でガクンと膝をつきうなだれる。


「浮竹隊長…!」
「死んでませんから」
「ういっす」


伊勢副会長の冷静な突っ込みである。もちろんわかってます。でもそばにお香焚かれてるし焼きそばとか飲み物とか置いてあるしで完全にお通夜始めようとしてますよね?と聞けばお香は浮竹隊長の心地よい眠りのためのもので、ご飯は海の家の三人からの差し入れなのだそうだ。そういえばお腹空いたなあ。

と、足に違和感。


「ん?」


俯くと右足に黒いツルのような物体が巻き付いていた。反射的に左足で振り払った、と思ったら今度は胴体に巻き付いてき、「んぎゃーーー?!?!」ぐおんと持ち上げられた。一気に地上20メートル付近まで浮き上がり浮遊感に気持ちが悪くなる。


「きゃあーーー!」


周りを見てみると伊勢副会長と虎徹副隊長も同じ被害に遭っていた。このツル何だ、と思い後ろを振り返ると、なんとそこにいたのはスイカのおばけだった。
いやスイカといっていいのか?そのおばけは黒いボサボサのツルを海から生やし、本体である巨大なスイカにむき出しの歯が生えている。そしてその球体から伸びるツルが今、わたしたちを捕らえていた。足をバタバタさせるも解ける気配はない。以前現世で破面と戦ったときを彷彿とさせる。


「なんだ?!」
?!」


見下ろすと卯ノ花理事長たちだけでなく離れたところにいた弓親さんたちやルキアちゃんも集まっていた。ヘルプを出そうと叫ぶ。


「ゆみちーー…ひっ?!」


するりとお腹を這う感触。水着の下に入り込んでいるのだ。き、気持ち悪い!


(ひいいいい…!)


ぞわぞわと背筋が粟立つのをぎゅっと目を瞑り何とか声を押し殺して耐える。「きゃああっ!どこ触ってるんですか!」「ああっツルが水着の中に…!」見る余裕はないけれど二人も同じ状況なのはわかった。どうしようどうしよう…!斬魄刀は持ってきてないし両手が塞がれてて鬼道も使えない!
助けてという気持ちで弓親さんたちを見る。ほとんど涙目だったかもしれない。しかしわたしの必死の懇願だったのにもかかわらず、頼った先の上司は見事な間抜け面だった。こ、このやろう…!でもよく考えたら弓親さんたちも斬魄刀持ってないわけだし為す術なしなのは一緒か、いや鬼道使えよ!

しかし迅速に行動をしてくれた石田くんや茶渡さんによって放たれた霊圧の攻撃はなんとすべてツルに吸収されてしまった。物理攻撃じゃないと駄目なようだ。それがわかった砂浜のみんなの中で唯一なぜか斬魄刀を持っていた阿散井副隊長が斬りかかる。


「吼えろ!ざびーー」


阿散井副隊長…!さすが旦那にしたい死神ナンバーワン!!(わたし調べ)


「まああ〜〜〜?!」
「ぎゃー阿散井副隊長ーー?!!」


なんと斬りかかった阿散井副隊長は足をツルにするっと掴まれひょいっと海へと投げ飛ばされてしまった!頼みの綱が!
しかも今度は余りのツルが砂浜のみんなに攻撃を始めたではないか。鋭く尖ったツルが砂浜に突き刺さる。「きゃああ〜〜っ!」更には織姫ちゃんまで捕まってしまった。


「尽敵螫殺、雀蜂!」


解号の声に振り返ると砕蜂隊長がスイカのおばけに雀蜂をお見舞いしていた。蜂紋華が浮かび、スイカのおばけが砕ける。その拍子に透明な液体が飛び散り、わたしと織姫ちゃんにもろにかかった。うべえ、なんだこの赤っぽい液体。それに気を取られているうちにツルは消滅し、身体の拘束が解かれたわたしたちは一斉に砂浜へと落下していった。


「でっ」
大丈夫?!」


なかなかの高度からの落下でおしりを強打したものの致命傷にならなくてよかった。駆け寄ってきた弓親さんには頷き、顔にまとわりつく透き通った赤色のベタベタした液体をパーカーで拭う。ていうか綾瀬川このやろうさっきの無能っぷり一生根に持つからな。


「海中でサメを追っていたら上から阿散井が落ちてきたので気になって駆けつけてみたのだが…」


気付くと海に放り投げられたはずの阿散井副隊長が目を回した状態でサメと仲良くおねんねしているではないか。砕蜂隊長たちのアクティブすぎる遊びに絶句していると、今まで寝ていた浮竹隊長がようやく起床したらしかった。


「おっ!スイカ割り、もう始めていたのか!」
「は?」
「私から説明いたしましょう」


卯ノ花理事長からのありがたい説明によると、なんとこれは、卯ノ花理事長と浮竹隊長と朽木隊長が計画したスイカ割り大会だったのだそうだ。スイカのおばけもおばけなんかじゃなく、技術開発局が作った対虚用の戦闘機らしく、会長のお願いで副会長代理のネムさんが持ってきたという。


「満足いただけたでしょうか」
「ばっちりー!」
「ふ、副隊長…?!」


なんでわたしに教えてくれなかったんだ…!今日あんなに一緒にいたのに!!あっさり裏切られた気分に襲われダンっと砂浜を叩く。弓親さんも呆れたように溜め息をついていた。

ともあれ、これは一応スイカなので食用ではあるらしい。「ほんとだ、スイカだー」織姫ちゃんが自分の腕を舐めるのを見て、わたしも気を取り直して腕を舐めてみる。


「スイカだ…」
「…ここまで凝る必要性がどこにあるんだろうね…」
「弓親さんも舐めてみます?」
「誰が舐めるか!!」
「いでっ!」


善意で腕を差し出したのに超思いっきりベシンと叩かれた。なんだこいつ!骨折させる気か!


「うわ最悪手がベタベタする…」
「最悪なのはわたしの方なんですが」


このやろうと睨むがものすごく嫌そうな顔で海行って流してきちゃいなよと促されたのでそれもそうだと立ち上がる。


「まだ終わっていません。スイカは人数分用意しました」
「え」


ネムさんの単調な声に顔を上げる。「ぎゃーー!!」目の前の砂浜からまたスイカのおばけが現れたのだ。バッと周囲に目を向けるとわたしたちを囲むように奴らが出没しているではないか。ざっと見て十はいる。わー虚退治でもするのかなー。





その後一角さんの復活(生き埋めになったあとずっと気を失っていたらしい)や白打の手練れである夜一さんと砕蜂隊長の力もありなんとか全員分のスイカを割ることができた。これから食べられるようにカットする作業に入るらしい。


「あーー疲れたーースイカーー」
は先それ流してきな」
「はーい」


弓親さんに言われた通りスイカの汁を流すため海に行くことにする。パーカーを預け、一人で駆けていく。ロクに働いてはないけれど斬魄刀なしの白打での応戦は異様に疲れたのだ。人知れず溜め息をつく。慰安旅行なのに慰安してないの絶対におかしい。会長に抗議してでも別の慰安旅行を計画していただかなければ。そう決意し、初めての海にダイブするのだった。





「流す前に顔でも舐めちゃえばよかったのに〜」
「うわっ乱菊さんか……なに言ってんの」
「知ってたけどあんたってむっつりよねー。がツルにいいようにやられて顔真っ赤にしてたくせに〜」
「ふざけたこと言わないでくれるかな」
がほっぺ赤くしてー涙目であんた見てー」
「乱 菊 さ ん…!」


乱菊さんにからかわれた弓親さんが顔を真っ赤にして怒っていたことは、勢い余って海水を飲んでしまったわたしには知る由もない。


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