地平線とはこのことか。空の青と海の青が混ざり合って云々。そういう科学的な文学的なことはよくわからないので広大な海に向かって叫んでおく。
「うおーーー!」 それからすぐに乱菊さんたちに呼ばれ、みんなが集まっているところへ戻る。砂浜の貝殻が足にちくちく刺さるな。会長も砂浜にしゃがんで何かを漁っていたので声をかけて二人で戻った。女性死神協会でのお守りはもっぱらわたしの役目である。貝殻を避けるようにひょいひょい歩くわたしとは対照的に会長は楽しそうにずんずんと踏みしめていた。 「というわけで、女性死神協会の慰安旅行で、現世の海にやって来ましたー!」 乱菊さんの挨拶にいえーい!と会長と飛び跳ねる。女性陣はすでにおととい買った水着に着替えており、海を満喫する準備は万端である。大人組の露出が激しい点にはもはや誰も突っ込まないらしい。それにしても砕蜂隊長、ピンクのラメラメ水着ダサすぎると思ってたけどパレオ巻いていい感じになってるじゃないですかー! 「何がというわけなんだよ…」 「それは、私から説明しましょう」 状況の把握ができていない一護に伊勢副会長が事の経緯をするのを小耳に挟んでいると、海の家の方から浮竹さん率いる男性死神の面々がやってきた。十三番隊の小椿三席に加え、おととい乱菊さんに誘われた阿散井副隊長、一角さん、そして弓親さんだ。そういえば朽木隊長もプールのお詫びで呼ばれたらしい。浮竹隊長はたまには風に当たった方がいいとのルキアちゃんの提案で呼ばれたのを、付き添いで小椿三席も来たようだ。 「まあいいじゃないか一護くん。今日は大いに楽しもう」 「浮竹さんたちまで」 本当に赤フン一丁で来たらしい一角さんにもう何て言ったらいいのかわからないけどとにかく微妙な眼差しを送っていると、彼の隣に立つ弓親さんも微妙な顔をしているのに気が付いた。そんな顔するなら水着を選ぶ時点で一角さんを止めててくれよ…と恨めし気に視線をやるも、しかし彼は一角さんではなくなぜか砂浜を見ている。一角さんのチョイスに絶望しているわけじゃなさそうだ。「? ゆみ…」声をかけようとしたそのとき、近くでバタンと音がした。 「浮竹さん!」 「隊長!」 なんと浮竹隊長が倒れたのだ。そばの阿散井副隊長と小椿三席が膝をついて声をかけるもうつ伏せになった彼は「すまん…急に意識が…」とか何とか呻いて完全にダウンしていた。 急遽パラソルの下へ運び、卯ノ花理事長の介抱を受ける浮竹隊長。彼療養のため、しばし自由時間の流れになった。一護と阿散井副隊長は浮竹隊長のために海の家へ氷をもらいに行き、他の暇なメンバーは各々自由行動を取っていた。わたしももちろん暇である。ならば海に入るしかあるまい! 「弓親さー…「じゃあ僕は海の家で時間潰してくるよ」…ん?!」 当然のように弓親さんたちと泳ごうと思って声をかけたのに、肝心の彼はそんなことを言いながら背を向けて歩いていくではないか。ここにきて一角さんの金魚のフンをやめるとはどういう了見だ綾瀬川。 「いいのか弓親?せっかくの海だぜ?」 「そうですよ弓親さんも泳ぎましょうよ!氷なら一護たちが持ってきてくれますし!」 「だから焼けたくないんだってば。日番谷隊長もいるみたいだし僕はあっちで涼んでくるよ」 「か〜っ!日陰男子か!」 「初めて聞いたんだけどその言葉」 少し離れたところに見える海の家の前では日番谷隊長の氷輪丸が蒼天に坐しているのが見える。本当にあの人も来ているらしい。なんでこっちに来ないんだろう。「ゆみちー海の家行くの?あたしも行くー!」「はい、じゃあ行きましょう」会長も海の家に興味を持ったらしく弓親さんの隣にくっつく。 「じゃ」 「あ、」 省エネ稼働の弓親さんはそう言って再び踵を返す。反射的に、引き止めたいと思った。が、あの見るからに日光を忌み嫌ってそうな弓親さんには何を言っても無駄な気がするのも直感していた。光合成でエネルギー補給してそうなのに灼熱の太陽は苦手そうなのだ。あの人の生態は謎に包まれている。と少し思考が脇道に逸れた。 「俺は戻ってきた一護たちと泳ぐが、おまえはどうする?俺らと来るか?」 「んー…」 わたしを見下ろす一角さんと一度目を合わせ、それから砂浜に落とす。次に顔を上げたときは、真正面に向いていた。 「…海の家!」 ◎ 貝殻に気を付けながらひょいひょい追いかけると弓親さんはちょっと驚いたように目を見開いていた。会長の「ちゃんもかき氷食べるー?」とのお誘いに乗っかる。途中で氷を持った一護たちとすれ違い、海の家「魂」に着くとそこには見慣れた人物の姿が。 「あ!織姫ちゃん!」 なんとそこには織姫ちゃん、だけでなく石田くんや茶渡さんなど元旅禍陣が集結していた。なんでも卯ノ花理事長に頼まれて海の家のアルバイトをしているらしい。今日は浜辺が貸切だとは聞いていたけど、そうか海の家まで貸し切ったのか。 かき氷を頼んだあと奥で畳に寝転がっている日番谷隊長を発見し意味もなく突進しようと畳に上ったところで、「」弓親さんに呼ばれた。 「はい?」 「海入らないんならこれ着てな」 手渡されたのはオレンジ色のパーカーだった。どうやら男性死神の皆さんはここを根城にしているらしく、これも弓親さんの荷物から出てきたようだ。でも、弓親さん自身も微妙に派手な柄のパーカーを着てるから、彼は二人分のパーカーを持ってきていたということになる。普通に考えたら異常な行動だろう。しかもなんでわざわざわたしに…? 「……あ、なるほど。了解です」 「何が?」 「ルキアちゃんもさっき朽木隊長にパーカー渡されてたので」 「……で?」 「弓親さんてほんとわたしの保護者役が板に」 「ついてないから!」 被り気味に否定されるがいつものことなのでハイハイと受け流し袖を通す。ルキアちゃんが朽木隊長に何と言われていたのかまでは聞き取れなかったが、おそらく日焼け対策か何かだろう。お兄さんである朽木隊長並みに世話を焼きたがる弓親さんの保護者感たるや。いやはや。 「まあわたしはべつに保護者と思ってるわけじゃないのでご安心を」 「…じゃあ何だと思ってるわけ」 「一応上司とは思ってますよー尊敬はしてませんがね!」 「一言多いわ!」 頭をベシンと叩かれる。このやろうと殴り返そうとするもさっさと畳に上って行ってしまう弓親さん。それを追いかけると織姫ちゃんが注文のかき氷を持ってきてくれたので、タイミングを失った拳は解かれることとなった。 |