気が付いたときにはベッドの中で横になっていた。一瞬状況がわからず逡巡し、納得すると人知れずはあと息をついた。どうやら尸魂界に帰ってきたらしい。なかなか世話になることはないが、ここが総合救護詰所だということはすぐにわかった。
ゆっくりと上体を起こす。くそ、気絶させられたのか。誰に……九番隊の檜佐木か三番隊の吉良か。そうだ、一角!ハッとして辺りを見回すがどうやら個室らしく、僕以外の傷病者の姿は見当たらなかった。


「……」


傷病者は、だ。ようやくその存在に気付き、すぐ近くで寝こける女を見下ろす。
だ。がなぜか、僕のベッドにうつ伏せで寝ている。曲げられた腕に隠れて顔は見えないが、規則的に肩が上下しているところから熟睡中のようだ。

朝方、唐突に総隊長に呼び出され一角と共に現世へ向かった。は非番だからその場にはいなかったし、そもそも呼び出されたメンバーには入っていなかった。何か書き置きして行くべきかと思わないでもなかったがその時間も与えられず、僕は自分の斬魄刀だけを持って出立したのだった。
彼女は僕らが何をしに行ったのか知っているのだろうか。ここに来ているということは誰かから聞いたのかもしれない。思うとバツが悪く、つい目を逸らしてしまう。僕は上司なので、あまりかっこ悪いところは見せたくなかったのだ(とか言ったところで「かっこいいと思ったことは一度もない」とか返されるんだろうけど)。
折れた左腕は固定されたままではあるが、他の外傷はほとんど治療済みのようだった。普段馬鹿にしがちな四番隊だけれど、こういうとき頼りになるのは本当だ。まあ、弱いのは美しくないと思うので、他の十一番隊士の気持ちもわからないでもないが。でもああも大きな態度見せられると萎えるよね。何が言いたいかと言うと、四番隊と十一番隊の確執には興味がない、ということだ。

ともあれ、だ。経緯はわからないが僕の様子を見に来たのだろう。それは、素直に嬉しいと思う。見舞いに来たくせに本人差し置いて寝こけるところも彼女らしかった。


「……はあ…」


溜め息をついてから、誰が見てるわけでもないのに口元を隠した。無意識に口角が上がっていたのだ。それからまた視線を彼女に落とす。起きる気配はない。

つくづく美しくないなあと思う。が、だ。そう、まるで美しくないのだ、この子は。

でも。とっても不本意だけれど。なんだかんだ、僕は君を大切に思っている、なんてことは言ってやらない。それはとても悔しいから。





肩を揺する。とりあえず一旦起こして、一角の様子を見に行きたい。敵の破面にやられたあとどうなったのかわからないけれど、まさか死んだということは……ないとも言い切れない。ああ、考えれば考えるほど自分が情けない。間違いなく僕は、この戦いでかなり早く離脱した戦闘要員だった。檜佐木と吉良に八つ当たりしたくなる気持ちも許してほしい。が、とりあえずは揺すってもなかなか起きないに当たらせてもらう。「おい、起きろって」ポンと強めに肩を叩いてようやくお目覚めのようだ。ゆっくりと目を開き、僕へ顔を上げる。

変わる表情に、一瞬呼吸ができなかった。


「弓親さん!」
「うん、」
「…もーー勝手にどっか行きやがって!」
「いだっどう見ても怪我してるとこ叩くなよ!」


包帯が巻かれた腕をバシンと叩かれる。文句を言ってやるがはやけに嬉しそうな顔のままだ。ここにきてまた状況が読めない。なんでそんな喜んでんの、隠せてないよ。内心動揺しながらも、僕が一角のところに行くことを提案すると彼女も快諾してくれた。やたら素直だ。

二人で廊下を出るとすれ違う四番隊にビクつかれる。がハッと息を吐く。


「ほら〜十一番隊がガン飛ばすせいで四番隊の人たちに怖がられた」
「普段から飛ばしてるのは君の方だろ」
「はて何のことでしょう」


下手くそなすっとぼけも彼女ならではだ。やっぱりこれは本物か。特に影武者の線を考えていたわけじゃないがどうも偽物くさかったのも本当だ。


「おう、てめえも起きたか」
「隊長」


一角の部屋に行くと隊長と副隊長がベッド脇に立っていた。どうやら僕らの様子を見に来ていたらしく、僕の病室に行ったらが寝こけていたから任せてきたとのことだった。はそれを聞いて「なるほど。その任務ばっちり果たしてきました」とかっこよく親指を立てているが、任されたのはどちらかというと僕の方だろうとなんとなく察した。隊長の影から顔を覗かせた一角と目が合う。元気そうだ。


「おー一角さん!」


そう言って駆け寄るのあとに続く。…ああ、この子置いてかれたこと気にしてたのかな。ようやく不審なの謎が解け、腑に落ちると同時に複雑な気分になったのは気のせいにしておく。


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