「隊長たちが帰ってきたぞー!」


その一報が届いたとき、わたしは空座町の目の前で座り込んでのんびりしていた。面倒くさいことを頼まれるのかと思いきや技術開発局でもないわたしに理解できることは少なく、阿近さんにあっち頼むわと言われ回されたのはこの空座町を虚から守る役割だった。腐っても十一番隊だからと虚の出現が多く予想される場所に配置されたのだが、思ったほど奴らは沸いてこず暇を持て余していたのだった。

それを耳にした瞬間バッと立ち上がり、近くにいた十二番隊士にあとのことを任せ、本部と思わしき阿近さんのいるところへ駆けて行った。そこには阿近さんだけでなく涅隊長もいて、報せは本当だったのかと確信する。わたしと目が合った途端嫌な顔をした涅隊長は放っておき、阿近さんに詰め寄る。


「阿近さん、弓親さんたちは」
「ああ、戻ってきたみたいだな」
「みたいだなって」


ちらりと涅隊長を見上げる。同じ現世に行ったこの人が戻ってきてるんだったら彼らも戻ってて当たり前じゃないのか。なんでそんなふわふわした言い方するんだろう。わたしを見下ろしていた涅隊長は嫌そうな顔で舌打ちをかましたと思ったら阿近さんに怒鳴りつけた。


「阿近!なぜ十一番隊の小娘がいるんだネ!」
「すいません。人手不足だったので虚討伐班に組み込みました」
「まったく…こいつがいるといつもロクなことにならないヨ」
「人を座敷童みたいに言わないでください」
「疫病神な」
「それだ」


まったく涅隊長はこの間実験の邪魔をしたことまだ根に持ってるのか。ちょっと技術開発局の一室が爆発しただけなのに大げさだな、失礼してしまうよまったく。ちなみに片付けとかからは全力で逃げた。
ギャンギャン騒ぐ涅隊長は改めて放っておき、そんなことより、と阿近さんに向き直ると「更木隊長と草鹿副隊長は虚圏から黒腔を通って帰って来られたが、斑目三席と綾瀬川五席は穿界門から帰って来たから場所が違うぞ」と教えてくれた。話が早いなと思うより先にえっと声を上げる。四人は行き先が違ったのか。なんかよくわかんないなあ。まあとりあえず隊舎に帰ればいいのかな。


「わかりました。じゃ、わたしはこれで」
「おー」


わたしはマキマキがやってたよりも軽く敬礼をしてみせて、踵を返し駆け出した。「ー」後ろからの阿近さんの声に振り返る。


「斑目三席と綾瀬川五席なら総合救護詰所だぞ」


え。





本当だった。総合救護詰所に乗り込み救護室を片っ端から確認して行ったら、五つ目のそこに弓親さんを見つけた。その隣の部屋には一角さんも寝ていて、パッと見では一角さんの方が重傷そうだった。また出しゃばったのだろうか一角さん。


「………」


ここにいるということは生きてるということで、生きてるなら心配はなかった。ただ何となく、二人がこんなにボロボロなのに自分だけピンピンしているのがどうしてだか居た堪れなくて、わたしはふらふらと、ベッドの横にあったイスに腰掛けた。まっすぐ姿勢良く寝ている弓親さんの頭には包帯が巻かれている。こんな弓親さんは久しぶりに見た。そのままボフンと音を立て、頭だけベッドに沈める。

一護たちが初めて尸魂界に来たとき戦った岩鷲さんには結構派手にやられたらしいけど、確か同じ騒動で檜佐木副隊長とやり合ったときは結構元気だった。あれ、そうだ、弓親さんが本当は鬼道系の斬魄刀だってことを知ったのもあのときだ。そうだそうだ、一角さんが卍解できるって話を聞いて既視感を感じたのはこの人のことだったんだ。性格は全然違うのに、流魂街の頃からつるんでただけあってこの人たちって似てるよなあ。

藤孔雀を本当に解放させたんだったら弓親さんはあのときみたいに元気なんじゃないだろうか。見てたことをあの騒動が鎮静化したあとに言ったらものすごくバツの悪そうに説明された記憶がある。もちろん詳しくは覚えてないけど、とにかく本来藤孔雀は直接攻撃系でなく鬼道系の斬魄刀なのだそうだ。
檜佐木副隊長を倒したあとどこかへ向かっていく弓親さんは結構生き生きとしていた。でも今回はこうしてぶっ倒れているわけだから、やっぱり本気は出さなかったんだろう。

まあいいや。あとで本人に聞けば済むことだ。規則正しい寝息が聞こえるので気を失ったまま寝てるだけなんだろう。心配はしてない。


……しんぱいは………。………………。


心臓がざわざわする。目の前に確かに存在していて無事なのもわかっているのに落ち着かない。きっと疲れてるんだ、虚退治それなりに頑張ったし。そう思い至ったわたしはベッドに顔をうずめ、静かに目を閉じたのだった。


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