今回一角さんは身を引くらしく鬼灯丸の解放だけして突っ立っていた。弓親さんの出番ならつまりわたしの出番だ!と気合入れて解放したのに、すぐさま弓親さんに下がってろと言われてしまい仕方なく様子を見ることにしていた、のだが。
「ぐあっ!」 弓親さんが吹っ飛ばされた。さすがの彼でも十刃が相手ともなると一筋縄ではいかないのだろう。そろそろわたしの出番か、と刀を握り直すと反対に刀をしまった破面が両袖をぶらぶらさせながら口を尖らせた。 「だ〜から〜一対一じゃ勝ち目ないって言ってんじゃん〜わかんないの?」 「うるさい!」 「はあ…君らからも何か言ってやんなよ。そろそろ本当にやっちゃうよ」 「…二対一は趣味じゃねえ」 「わたしは趣味なので行きましょうか」 「両方来ちゃいなよ…めんどくさあ」 すっかりやる気をなくしたかと思いきや、しかし破面は何かを思いついたらしく大きい方の破面に何やら話し掛け、そして腰の斬魄刀に手を掛けた。 「もうめんどいからさ〜一気に五対一でやろうよ。僕が解放して、まとめて相手してあげるからさあ!」 破面の斬魄刀解放だ。一角さんがこの間戦ったときに見たようなやつになるのだろう、と予想しながら構えるわたしと違い、日番谷隊長が即座に卍解しそれを止めようとした。けれどあと一歩のところで間に合わなかったらしく、湧き出た煙の中から一本の白くてでかい触手のようなものが彼に向かって伸びてきた。それを難なく受け止めた日番谷隊長は余裕の表情である。 「意外とやるんもんだね隊長クラスってのは。でもさあ……もし、今の攻撃が…八倍になったら、どうかなあ?」 煙が晴れて姿を現した破面の背中からは八本の触手がうようよとうごめいていた。それらが一斉に日番谷隊長を攻撃する。大きな衝撃音。「隊長!」乱菊さんの声も虚しく、卍解を砕かれた日番谷隊長は力なく落下していった。それを追い掛けようとしたところで「言ったろ、五対一でいこうってさ」破面の台詞が降りかかり、身体がピタリと止まる。見上げると、彼は随分と悪どい表情をしていた。 「あっゴメーン… 五対八だっけ」 舌なめずりをしてみせた破面に思わず顔をしかめる。濃いキャラの彼は嫌いなタイプではなかったけれど、敵であるが故にどうも不愉快だ。こちらが動き出す前に攻撃を仕掛ける触手に後手に回る他なく、避け切れず脇腹にもろにくらい吹き飛ばされたりと一方的にダメージを蓄積していく。 「なんだ、話になんないね。君たち本当に護廷十三隊の席官?つまーんない!」 「クソッ…」 動きの読めないそれには他の人たちも苦戦しているらしく手が出ないようだった。そして、避けつつ攻撃を仕掛ける中、ついに乱菊さんが捕まってしまった。「らんぎ、!」一瞬気を取られた隙にわたしにも触手が伸びてき、両腕ごと身体に巻きつかれた。斬魄刀を落とさないようなんとか堪え力任せにもがいてみるも解放される気配はない。「!…クソッ!」順に弓親さんと一角さんも捕まってしまったらしく、二人も両手を封じられ身動きが取れない状況だった。 「クソッ何しやがる!」 「なんという醜い…!」 なんとか脱出を試みようとするけれど両腕は動かせないし足をバタつかせても空を切るばかりだ。斬魄刀をどうにかすれば、と思うけれど今持ち替えでもしたら落とすのは免れないだろう。足場を作るにも不安定すぎて上手くいかない。そうこうしながら足掻いていると、おもむろに乱菊さんだけが引き寄せられ、破面の前で止まった。ハッと見上げる。 「おねーさんさあ、や〜らしい身体、してるよねえ……いいなあ〜セクシーだな〜」 破面の声に呼応するように、突然、空いていた触手の先から無数のトゲが現れた。「穴だらけにしちゃおっかなー?」その台詞に、全員に緊張が走る。 「だめー!!」 「テメェ!」 「やめろ!」 わたしたちの声を無視し、触手は勢い良く乱菊さんに迫る。が、突如下からの斬撃により針山だった先端が切断された。えっ、なに?見回すと、地上を歩く浦原さんが見えた。そういえば浦原さん、昔十二番隊の隊長だったんだっけ。前にそんなことを聞いたのを思い出す。隊長だったんなら絶対強いはず、心強い味方だ!と期待を寄せたのも束の間、浦原さんは別の破面との戦闘を始めてしまい援軍は叶わなかった。先ほどの浦原さんの一撃で解放された乱菊さんも別の腕に捕まってしまったようだった。浦原さんと戦いたかったらしい六番の破面は何かをブツブツ呟いたあと、気を取り直したのかわたしたちに向き直った。「ホント話になんないよねえ。せっかくあのゲタ男が助けてくれてもすーぐ捕まっちゃうんだもんねえ、ましょーがないかあ、八対四じゃ逃げ場ないしねー」いつまでも軽いノリの話し口調に何か言い返してやろうと口を開く。ふと、隣を見ると、乱菊さんが見下すように冷めた目で彼を見ていた。 「アンタさあ…ずっと思ってたけど、随分おしゃべりなのね」 「…それが何さ?」 「あたしおしゃべりな男って嫌いなのよね。なんか気持ち悪くって」 乱菊さんかっこいい!と目を輝かせていると、案の定癇に障った破面が切れた。しかしそちらを見てみると、なんと空いていた触手が凍っているではないか。異変に気が付いたらしい破面も明らかに動揺を見せる。 「な、なんだよ…これ…」 「一度攻撃を加えた敵に対して気を抜きすぎなんだよ、おまえ。残心って言葉、知らねえのか」 なんと日番谷隊長が復活しているではないか。彼は何やらかっこいいことを言い、とどめと言わんばかりの千年氷牢を決め破面を倒した。それと共に解放されるわたしたち。しかし突然支えがなくなったわたしは咄嗟に足場を作ることができず、「ぎゃああああああ」破面と同じような叫び声を上げながら落下することに。誰かに腕を引っ張られそれが止まったのは、木にぶつかるほんの数メートル前だった。 「毎度毎度…!」 「…ハッ!弓親さんありがとうございます」 助けてくれたのは弓親さんだった。素直にお礼を言うと露骨に顔をしかめられた。言うんじゃなかった。とりあえず一命は取り留めたのでさあ上がろうと見上げる、と同時に、突如上空から光が差したではないか。「ネガシオン…!」乱菊さんがそう呟いたのが微かに聞こえた。その光は千年氷牢に捕まっているはずの破面を照らしている。と、今度は氷が割れ破面が出てきてしまったではないか。彼は日番谷隊長に何か捨て台詞を吐くと、上空に昇り消えてしまう。浦原さんが戦っていた破面たちも同じらしく、どうやら戦闘は終わったようだった。乱菊さんたちが日番谷隊長の元へ向かうのを見た弓親さんに「行くよ」と掴まれたままの腕を引っ張られ、頷く。 「隊長、ありがとうございました」 「まだ倒したわけじゃねえ。厄介なのはこれからだ」 眉間に皺を寄せそう言った日番谷隊長を見る。一角さんは舌打ちをし、隣では弓親さんが「美しくない結末だ」と苦言を漏らしていた。十刃はやっぱり強かった。今日何もできなかったな。口をへの字に曲げ、俯く。ちょっと落ち込むな。 |