戦闘で負傷したわたしたちは全員浦原商店へ戻り、鉄裁さんたちによる治療を受けた。やや乱暴だった感は否めないけれど四番隊もいないこの状況ではありがたかった。特にミイラみたいにされてた弓親さん面白かったな。思いながら、ろくに何もしていないのにどっと疲れたわたしは部屋ですぐに横になり眠りについたのだった。


、起きて」


誰かに肩を叩かれ目が覚めると外はもう明るかった。枕元に置いてある時計はまだ六時にもなっていない。目覚まし機能もあるらしいけど一度も使ったことのないこれは元々この部屋に置いてあったものなので支給品というわけではないのだろう。起き上がると脇腹がじんじんと痛んだ。さすがに一日で治るわけないか、とゆっくり息を吐く。「大丈夫?」その声に顔を上げると布団のそばで弓親さんが膝をついてわたしを見ていて、特に何も言わず頷いた。心配されてるわけではない。彼の傷もまだ完治とはいえないだろうに、弓親さんを見るにその様子は見えないから大丈夫なんだろう。だからわたしが大丈夫なのもわかってるはずだ。
そういえば、織姫ちゃんはまだ尸魂界にいるのかな。こっちにいてくれれば治療も頼めただろうに。


「織姫ちゃんがいなくなったんだって」
「へ?」


タイミングがタイミングだったのもあって素っ頓狂な声を上げてしまう。目をまん丸に見開き弓親さんを見上げる。眉をひそめて神妙な顔をしている。嘘はついてない。というか、いくらセンスのない弓親さんでもそんな微妙なラインの嘘はつかない。


「だから織姫ちゃんの家に集合だってさ」
「行ってどうするんですか?」
「尸魂界からの指示を仰ぐって」


なるほど、と頷く。あの部屋には日番谷隊長が家主に無許可で設置した尸魂界と通信できる大きな装置がある。昨日の破面襲撃のこともあって何か連絡があるのだろう。義骸を脱ぐ必要があるのか知らないけれど、急ぎみたいだったから文句も言わず言う通りにした。

織姫ちゃんの部屋には阿散井副隊長とルキアちゃんと乱菊さんが先に来ていて、わたしたちが着くとすぐに日番谷隊長と一護が到着した。


「…なんだよ、みんなで井上の部屋に集まって。井上はどこだよ?」
「それは…」


ルキアちゃんが答える前に日番谷隊長の指示で乱菊さんが機械を操作し尸魂界と繋いだ。すぐに大きな画面が点き、瀞霊廷のどこか暗い部屋が映る。現れたのは、深刻そうな表情の浮竹隊長だった。


「浮竹?総隊長じゃねえのか」


彼の口から聞かされた話はとんでもない内容だった。なんと織姫ちゃんが死んだというのだ。しかも聞く限り確たる証拠もないようで、さすがにそれはひどい憶測じゃないか、と身を乗り出すより先に一護が浮竹隊長に詰め寄った。一護は昨日誰も治せなかった傷が朝になっていたら治っていて、織姫ちゃんの霊圧が手首に残っていると言った。
なるほど、それならまだ織姫ちゃんは現世のどこかにいるんじゃないか、と目線を動かす。まさか視界に入るどこかにいると思ったわけではない。探せば見つかるんじゃないかと思ったのだ。弓親さんはいなくなったって言ってたけど、一護も交えてもっとよく探せばあるいは、と見上げると、しかし斜め後ろから見えた弓親さんの表情はさっきよりも険しくなっていた。


「これでもまだ、井上は死んでるって言うのかよ」


一護がそう言うと、画面の向こうで暗がりから総隊長が姿を現した。
総隊長の言うことは浮竹隊長よりも無慈悲で、織姫ちゃんがわたしたちを裏切って自らの足で破面の元へ向かったとのことだった。そんな見解に納得なんてできず、だってわたしは今回こっちに来てから織姫ちゃんとろくに話せてなくて残念に思ってたから、せめて一言くらいはしゃべりたかったのに今は話せない場所に行ってしまったなんて、認めたくなかった。だから阿散井副隊長が織姫ちゃんを連れ戻しに行くと言ったときにはそうだそれがいいと顔を上げたのに、総隊長に間髪入れず却下されてしまった。


「破面側の戦闘準備が整っていると判明した以上、日番谷先遣隊は全名即時帰還し尸魂界の守護に就いてもらう」


なんと無慈悲な。不満げな表情をあらわにすると背後から穿界門が開き、なんと朽木隊長と更木隊長が現れた。「そういうわけだ。戻れ、おまえら」隊長が言うけれど足はまだ動かない。一角さんと弓親さんは二人ともわかっていたような表情で息をついていた。


「行くぜ」


一護の単身乗り込みも却下され、隊長のその一声でついに一角さんと弓親さんが動いた。それに振り返り、わたしも仕方なくついていく。後ろからは一護を残した全員がついて来ていた。


「後味悪いですね」


近くにいた弓親さんに言う。弓親さんは「まあね。…でもあっちのことは大丈夫なんじゃない」とどこかわかったように言うので首を傾げる。どういう意味だろう。
そう考えこんでいたから、弓親さんが振り返り後ろを歩く面々を見ていたことに気が付かなかった。こうして唐突に、日番谷先遣隊の任務は終了したのだった。


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