この間知り合ってから初めて連絡を取った水色くんとご飯の約束をした。当日は雲が数個ふわふわ浮いてるくらいのよく晴れた天気で、商店街で待ち合わせて近くの店に入って食事をした。水色くんは独特の感性の持ち主のようで話していてとても興味深い。そしてやはり声が弓親さんに似ているのでそういう意味でも興味津々に彼の話を聞いていた。高校の話を聞いていると真央霊術院時代を思い出して、学業がきついのは現世も尸魂界も同じだなあと思った。
丁度店を出たところで水色くんが知り合いのお姉さんに呼び出されたということで解散し、さてどうしようと考えていると突然後ろ襟をむんずと掴まれた。「ぎゃ!」そのまま引きずられるように背後に引っ張られる。驚いて振り向くと見覚えがありすぎる後ろ姿が目に映り、意義を申し立てるべく名前を叫ぶ。


「弓親さん!」
「なに」
「こっちの台詞ですうあ!」


後ろ歩きを余儀無くされたわたしは慣れない動きのせいで足を足に引っ掛け見事べしゃっと尻もちを着いてしまった。痛い。そこでようやく立ち止まった弓親さんはわたしをゴミでも見るかのような目で見下し、「何やってんの」などとほざいた。ジト目で睨み返さざるを得ない。


「こっちの台詞だ…いきなり何なんですか」
「何なんですかじゃないだろ。今日集まって鍛錬するって言われたの忘れたわけ」
「………あっ」


言われてハッと思い出した。そういえば日番谷隊長の提案でどこか人の少ないところで鍛錬をしようみたいな話があった気がする。今日だったのすっかり忘れてた。お尻をパンパンと払い立ち上がると弓親さんには深い溜め息をつかれ、「もう他の人たち集まってるから。周りに迷惑掛けるのいい加減にしなよ」と窘められた。さすがに申し訳ない気がして素直に謝ると、弓親さんは呆れたように目を細め、さっさと踵を返した。弓親さんはどうでもいいけど他の人たちに迷惑掛けるのはよくないよなあ。今度から気を付けよう、と人知れず誓い、彼のあとを追ったのだった。





「いーーーやーーーー!!!」


パチッと目を開き絶叫の聞こえた方を向く。そこではなんと、弓親さんが斬魄刀を岩へ振り下ろしていた。ガキンガキンと聞こえてはいけない音を響かせる彼の奇行にさすがのわたしもびっくりである。ついさっき静かに怒られたこともあって彼の悪い意味でのギャップにドン引きせざるを得ない。


「クソックソックソックソックソッこのやろおおお!!このッこのッこのッこのッ折れろ!折れろ!折れろ!折れちゃえチキショオオオオあーーームカツクーーー!!!」
「うるさい!!あんたちょっと黙ってできないの?!」


止まらない弓親さんへ乱菊さんが鞘を投げつけるが彼の怒りは治まらない。斬魄刀を逆手に持ち直し乱菊さんへと振り向いた彼の形相たるや酷いものだ。


「だってえ!藤孔雀のヤツムカツクんだもん!こいつは高飛車だし偉そうだし自分のこと世界一美形だと思ってるし、もう最悪だよ!僕、絶対こいつのこと具象化できないと思うんだよね!ていうか、菓子折りつけて頼まれてもしてやるもんかあああ」
「何言ってんの、あんたにそっくりじゃない。ウチの灰猫なんて、ワガママだし気分屋だしグータラだしバカだし、ホント反りが合わないってこういうこと言うのよね〜あ〜ヤダヤダ」
「うわそっくりー。乱菊さんてー、絶対写真に写った自分見て「アタシこんな顔じゃなーい」とか言うタイプだよね」


「あん?何だと弓親、もう一回言ってみろ!」「弓親ですからもう一回言いますよ〜」どんぐりの背比べとはこのことだろうか。二人の頭の悪い言い合いを黙って聞いていると「うるせえぞおまえら、集中しろ!尸魂界に帰らせるぞ!」日番谷隊長が声を張り上げ制止させた。集中しろというのはただ今している斬魄刀との対話のことであり、それが上手くいった彼らだからこその斬魄刀に対する文句の言い合いなのだ。残念なことに斬魄刀との対話を意図してできた試しのないわたしは、しばし頑張ってみたもののやはり叶わず早々に諦め、今は対話する振りをしてひたすら座禅を組んでいる真っ最中だ。他の人たちは全員立派に対話できてるようなので気まずいばかりである。
日番谷隊長の一声により落ち着きを取り戻したらしい二人が再び斬魄刀を持ち直したのを眺めていると、視界の隅で黒い線が入ったのが見えた。無意識に流してしまいそうになったのを堪え、顔を上げる。摩訶不思議なことに、青い空に亀裂が入っていた。


「え、」


その亀裂は広がり、やがて真っ暗な空間の中から人間が四人、現れた。彼らの容貌を見て、瞬時に理解する。破面だ。


「破面…?!そんな…早過ぎないか、いくら何でも…」
「確かに早過ぎるが…理由を考えてる暇はなさそうだぜ」


弓親さんの動揺に日番谷隊長が冷静に答える。すぐさま義骸を脱いだ四人に倣いポケットにしまっていたソウルキャンディーを慌てて飲み込むと勢いよく脱げてしまい座っていた岩の上から転げ落ちた。


「何やってんの!早く!」


弓親さんに腕を引っ張られよくわからないまま上空に飛び上がる。自分でしっかりした足場を作る頃には日番谷隊長が図体の大きい破面と対峙していて、さらに敵が十刃である情報を得ていた。


「日番谷隊長の相手は十刃みたいだね」


弓親さんはわたしの腕を離した手で斬魄刀を抜き、そのまま解放し両手で構えた。その先を見ると少年のような破面がいたので「うわっ」反射的にわたしも抜刀した。


「君も十刃かい?」
「そうだよ。名前はルピ。階級は6」


ルピという破面が自分の白装束を少しずらすと、腰に6の数字が刻まれているのが見えた。十刃というのは身体に刺青のようにナンバリングされているらしい。この間まったく相手にされなかった破面を思い出し、わたしは少しだけ身を震わせた。


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