優雅にアスファルトの道路を歩きながら浦原商店へ戻る途中、前に一度訪れたことのある緑に囲まれた広場を見かけ、そういえばここを突っ切ると目的地は近いぞと思い出し方向転換した。山田くんと壺府くんが調査に来たときまず最初に向かったそこは確か、一番最初に破面が現れた場所だったはずだ。あの大穴はまだ塞がれてないのだろうか。ずんずんと進んでいくと一面に広がる緑が見えてくる。
あ、大穴の前に誰かいる。…………んん?


ピタリと立ち止まる。あの白装束、ついさっき見た破面と似てないか?十メートル程離れた先に立っている、男と思われる後ろ姿をじっくり観察する。多分あれ破面でしょ、頭に何か骨みたいのくっついてるもの。間違いない。霊圧を探ってみてもやはりさっきの破面たちとほぼ同じだ。霊圧探査は苦手だけれどこれだけ近距離だったら探ることはできる。にしてもさっきの奴らのとは何というか、桁違いじゃないか。


「…なんだ」
「!」


気付かれた!戦闘は回避できまい。絶対強いぞこの破面。さすがにこんなハイレベルな相手は望んでなかったのになあ。


「……もしかして十刃というやつですか」
「貴様と話している時間はない」


何だと。まさかの相手にされてないパターンとは。正直今はいつもの十一番隊のノリでやっほーって斬り込むテンションではないので何事もなかったかのようにお暇したいのだけど、さすがに護廷十三隊の恥だろうなあ。仕方ないので腰脇に差した斬魄刀に手を掛ける。


「だがこちらの邪魔をされては困る。おとなしくしていろ」
「は?」


刀を抜くより先に、何かに吹き飛ばされ木の幹に打ち付けられた。痛え。四つん這いになって痛みに耐えているとすぐ近くに破面の気配がして、顔を上げると首を掴み上げられまた幹に押し付けられた。苦しくて息ができない。抵抗しようと相手の手に爪を立てるも効果はない。硬い皮膚だ。そもそも体温が感じられなくて冷たい。


「……ぐっ…」
「殺せとの命は受けていない。よって貴様は殺さない。しかし俺がここにいることが知られるのは命令に反する」
「……うっ」
「…見たところ尸魂界から派遣された死神の中で最弱だな」
「!」


やっと首が解放され、そのまま地面に投げ出された。酸素を思いっきり吸い込んで咳き込みながら、みっともないなあと思う。首締められたくらいで情けない。心なしか手足が痺れていて、この破面何したんだとは思うけれどどう考えても首を締めただけだからわたしの身体が勝手に痙攣を起こしているだけだ。こんなんじゃ刀も振るえない。


「見られても理解されることはないだろうが」


這いつくばっていると突然首裏に衝撃が来て、そのまま意識を手放してしまった。





目が覚めたときにはもう辺りは真っ暗だった。むくりと起き上がり、周りを確認しまだ破面がいることに気付くと緩んでいた緊張が再び張り詰めた。地面を触っている様子の彼が一体何を目的としているのか全くわからない。斬魄刀に手をかけたまま静かに立ち上がり、刀を抜こうと親指で束を押し上げた瞬間、


サン」


え?
声の方を振り向くと後方に浦原さんや鉄裁さんたちがいるではないか。あれ、買い出しは?どうしてジン太くんと雨ちゃんまでいるのだろう。浦原さんはわたしと目が合うとすぐに破面の方に向いた。


「追ってきたんですか?彼らを」
「貴様らの相手をする気はない」


事態が飲み込めないでいると破面はそう言ってから指をパチンと鳴らして空間に亀裂を作り、その向こうへと消えてしまった。ぽつんと取り残された気分になり呆然としてしまう。あっさりいなくなって、結局何だったんだ。


サン、無事でしたか。お怪我は?」
「あ、全然。戦ってすらいません」
「そうですか…。奴は何をしていましたか?」
「さあ、地面触ってたくらいで…そもそもわたしさっきまで気絶させられてて」
「気絶…?」


浦原さんは不思議そうに呟いてから、顎に手を当て何か思慮していた。やがて優しい顔でわたしを見下ろし、「とりあえず、帰りましょう」と言った。

浦原商店に着く頃には既に戦闘は終わっていたようだ。わたしたちが到着してすぐに日番谷隊長たちも地下勉強部屋にやってきて、弓親さん以外の三人は激しい戦闘の末か、遠目からでも生傷がいくつか確認できた。やはり彼の出番はなかったか。「あいつらは」一角さんの問い掛けに、何も見ていないはずの浦原さんが答えた。


「死んだようですねえ。藍染に踊らされてね」
「踊らされた?」
「彼らが持ってきた崩玉というのは、あれですか」


少し離れたところにあった紫色のそれが崩玉というものなのだろう。初めて見た。まじまじ見ていると、それはあっけなく崩れてしまった。


「藍染に偽物を掴まされたんでしょう。崩玉はそう簡単には壊れませんよ、作った本人が言うんだから間違いありません。彼らは藍染に嵌められたんでしょう。恐らくは、鏡花水月でね。でなければ、藍染の元からそう簡単に崩玉を持ち出せるわけがない」
「わざと持ち出させたってことか。でも、どうして」
「さあ…そこまではわかりませんが…」


そこで一旦区切り、ちらりとわたしの方を見た。意図がわからず首を傾げる。


「もしかすると、何か別の目的があって彼らを使って騒ぎを起こし、それを隠れ蓑にしようとしたのではないかと。これだけ経って、追っ手も来ないってのは有り得ませんからねえ。彼らは放っておいても、こちらで葬られる。粛正するにしても、こういう茶番を仕組んだ方が楽しい。彼はそういう男だと思います」


何か別の目的?言われてやっとピンときた。あの破面がやっていたことが、つまり浦原さんの言う別の目的だったのではないか。来た、冴えてるわたし、と思ったけれど奴が何をしていたのかさっぱりわからないので上がったテンションはすぐに下降した。藍染隊長も決戦は冬だってわかってるはずだ。それに備えて何か行動を起こしているのかもしれない。あそこで気絶させられなきゃなあ、と悔しがるも、力の差は歴然だったから衝突してたら間違いなくお陀仏だっただろう。情けをかけられたみたいでどうにもむかつくから、あの頭に被ってた角みたいなやつへし折ってやりたいよ。


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