「ごめんくださいー」


店の方からどなたかの声が聞こえ、例の任務の件かな、と思い迎えに行こうと腰を浮かすとまたしても鉄裁さんに先を越されおとなしく座り直すことに。
昨日日番谷隊長から浦原さんに連絡が入り、尸魂界から現世に技術開発局員が調査に来るという旨が伝えられた。何のための調査かは詳しく聞かなかったけれど、技術開発局って大体変なことしてるから気にすることもないだろう。ないのだけれど、わざわざ日番谷隊長が連絡して来るということは公的な意味で何かあるのだろうか。という考察を経たが解決には至らなかったわたしは当日の今日もここで待機しているのであった。


「どうもこんにちはー」


襖を開けぺこりとお辞儀をしたのは四番隊の山田くんだった。総合救護詰所で何回かお世話になったことのある、とても優秀な死神だ。あれ、何席だっけ。八?七?まあ細かいことは気にしないよね。というかなんで君がいるんだ?まさか知らない間に異動してたとか。
などと思っていると後ろからもう一人入ってきた。山田くんくらい背が低く、男か女か判別がつかない見た目をしている。着ている白衣からしてこの人が本日の主役である技術開発局員なのだろうけど、見たことないなあ。そもそも技術開発局員て涅隊長とネムさん抜いたら阿近さんしか知らないのだけど。


「こんにちは、はじめまして。壺府リンと申します」


リン、…女の子かな、わかんねえ。浦原さんの簡易な自己紹介に便乗して自分も名乗る。

それから、山田くんから今回の任務の説明をしてもらった。対破面、特に十刃に備えて限定解除が簡略化できるよう、戦いのあった現世に調査しに来たのだそうだ。どうやら山田くんは護衛と案内を兼ねて壺府さんについてきたらしく、べつに異動したわけでも救護が目的でもないらしい。へえ山田くんそんなに現世詳しいんだ、今度わたしも案内してほしいなあ。


「は〜い。日番谷隊長から聞いてます。確かに前回の戦いでは限定解除が遅れてだいぶ手こずってましたもんねェ」


そうなんだ、知らなかった。わたしが戻ってきたときにはもう阿散井副隊長と破面の戦いは終わっていたのだ。席官の一角さんは関係なかったし。
浦原さんは言ってから、仰々しくパッと扇子を広げた。


「まずは破面が出現した場所へご案内いたしましょう」
「ありがとうございます」
「じゃー綾瀬川サン、道案内を頼みますよ?」


部屋の外へ向けて浦原さんは言う。何を隠そう、今回の件はわたしと弓親さんが案内を任されているのだ。やるならこういう手頃な任務がいいと思ってたんだよね、まあ働きたくはないけれど。煎餅に手を伸ばしながら、障子の陰に隠れている弓親さんを見遣る。茶渡さんが来るより早く呼び出されたのだけれど、機嫌を損ねて外に座り込んでしまったのだ。振り返った彼を見るにまだ治っていない模様。


「…まだ納得できないんですが。どうして僕なんですか」
「いやあ、日番谷隊長に、サンが一番暇そうなので同行させる、と言われまして」
「は?それならだけでいいじゃないですか」
「もちろん彼女も行きますよ。でもそしたらサンが綾瀬川サンもいつも暇だって言って」
「おい!」
「サーセン」
「煎餅食べながら謝っても誠意一ミリも感じないから!」
「で、それを聞いた日番谷隊長が、サンだけじゃ心許ないから綾瀬川サンも同行させる、と」
「は?!そうだったんですか浦原さん!聞いてないんですけど!」
「言ってないですもん」
「くそおおおお日番谷このやろおおお」


どうりで弓親さんに押し付けたはずがわたしも行かなきゃいけないままなわけだわ!嫌がらせだ!あの人絶対わたしのこと嫌ってるよねていうか頼りないと思ってるよねむかつくー!畳に倒れ込んでバシバシ叩いていると、山田くんが困った顔でよろしくお願いしますと笑った。心底不服だけど、こちらこそと返す。視界の隅で「なんで僕ばっかり…」とか言ってる弓親さんはスルーする。

まず始めに最初に一護と破面が戦ったところへ向かった。浦原さんに地図を貰ったから迷わず着き、早速山田くんと壺府くんは不気味な機械を取り出し調査を始めた。そういえば壺府くんは男の子らしく、甘いものが大好きなんだそうだ。十二番隊作成現世パンフレットのことを話したら、そこに載っている甘味のページは壺府くんが編集したのだとか。あと帰ったら九番隊の精霊廷通信を購読するといいと勧められた。そっちの方が現世について何回も詳しく特集を組んでるらしい。なるほど。


「ねえ、まだ終わらないのかい。本当は僕だって忙しいんだから。君たちさっさと終わらせてくれないかい」


緑に囲まれた芝生の中心にあいた巨大な穴の中で霊圧パターンを読み取っている二人を弓親さんが急かす。その隣で穴の壁面を利用して地面に腰掛けるわたし。随分大きい穴だ。十刃すげえな。


「次の場所お願いします、綾瀬川さん、さん」
「はーい。行きましょう弓親さん」
「はあ…」


移動は専ら歩きだった。「あー…歩いて移動なんてめんどくさい」弓親さんがぶつくさ文句を言うと「すみません、僕瞬歩が苦手で」と苦笑いの山田くん。彼、治療以外は死神としててんで駄目なイメージがあったけれど、本当に駄目なのかもしれない。おおよそ四番隊向きだ。


「はあ…そ」
「ハハ……あれ」
「どうかした?」
「壺府さんがいないような」
「あれ、確かに」
「今度は迷子かい?」


気付いたら壺府くんが消えていた。きょろきょろ見回していると、彼はとある店から出て来て、手には紙の箱があった。駆け寄る山田くんに対する説明に寄るとどうやら現世の嗜好品であるケーキを買っていたらしい。任務中だというのにこの子も大概緊張感がない。恥ずかしながら人のことは言えないので黙るけども。にしても魂魄である壺府くんが実体化出来るというその装置、まじ技術開発局すげえ。


「やっぱわたしも十二番隊だったかな…」
「え、何か言ったかい?」
「いいえ」


十一番隊で不満はないけど、十二番隊って楽しそうだよね。朱に交わればなんとやら。人格から変えられそうで怖いけど。


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