『きゃあああああああ!!』
◎ ピピピピピピピピピ…… 真夜中に突然伝令神機が鳴った。あまりに煩いものだから仕方なく起きて画面を確認するとからの着信だということがわかる。あの女、僕の安眠を妨害するとかほんといい性格してるよね。嫌みを心の中でごちてボタンを押す。どうせ何かくだらないことでも思いついたのだろう。隣を見ると一角は起きてすらいなかった。あーいびきうるさい美しくないなあ。「何?」どうせいつもの腹立つテンションの声が聞こえてくるんだろうと思っていた。が。 『ゆみちかさん助けてくださいー…』 「…はあ?」 想像していた声とは酷く掛け離れていたため返事に困った。とりあえずに余裕がないことはわかる。 『やばいんです死にそうなんです』 「どうしたの、虚でも出た?」 『いやとにかく来てくださ…うっ…いいいい!』 「わかった待ってて。場所は浦原商店?」 『はいいいい』 時計を見ると午前二時だった。とにかくあまり深く考えず、義魂丸だけを持って浅野家を出た。 もうすぐで浦原商店だというのに虚の霊圧は感じられない。一体何があったというのだろう。たまたまなのか不用心なのか、店の引き戸は施錠されていなかった。店の周りにも中にも異変は感じ取れず、むしろ深夜らしく静まり返っている。中を覗いても真っ暗で、勝手に上がると一つの部屋から光が漏れているのがわかった。あそこか。「?」思ったより自分の声が小さくて、聞こえなかったかと思いつつも襖に手を掛けた。 がらり 「ぎゃあああああ!!」 「?!」 「あっ弓親さんか!驚かせないでくださいよ!」 「……」 布団に埋まりながら震えるの向かい側を見ると、「ぎゃあああ!来る!きっと来る!」テレビで女子学生がゾンビから逃げている映像が流れていた。ぼんやりとした白い光の正体はテレビだった。一瞬にして状況を把握した僕は溜め息をつく間もなく踵を返した。「帰る」しかしそれを阻むかの如くものすごい速さでに足を掴まれ危うくコケそうになる。…またか。なんかこのシチュエーション、現世に行く前にもやったな。 「なに」 「こっちの台詞ですよ!来て早々帰るとか!」 「ホラー映画を真夜中に見て怖いからって理由で呼び出すとか舐めてんの?安眠妨害で訴えるよ」 「さっさすが状況把握に定評のある弓親さん…!ついでに空気も読んでくださると嬉しい!」 「じゃあ手離せ」 「隣にいてください」 「……」 「……」 「…はあ、わかったよ」 「ありがとうございます!」 そんなさあ、震えるくらい怖いんなら見なきゃいいじゃないか。それか昼に見るとか。どうせ暇なんだろ。ほんと僕に対する嫌がらせとしか思えない。明日昼まで寝てやる。 それにしても、怖いの駄目なんだ。隣に体育座りしてるけどすごいくっついてくるし。驚く度に肩跳ねてんのばればれなんだけど。死神なんて現世の人間から見ればホラーなんだから僕らが怖がるとかお門違いにも程がある。というか、虚退治してるのにこんなのが怖いとかわけがわからない。うわあゾンビって醜い! 『キャアアアア!』 「ひっ」 「……」 『オ゛オ゛オオ』 「うっ」 「……」 退屈過ぎる。展開も見え見えだし。何も楽しくない。 「終わった…」 ようやく最後まで辿り着き、DVDを取り出してケースに仕舞う。雨専用と書いてあるからあのツインテールの女の子の私物なのだろう。ほんと、あんな小さい子でも普通に見れるホラーを、なんでこの子は一人じゃ見れないのかな。半ば放心状態のを一瞥して、疲労を溜め息として吐き出す。 「じゃ、帰るよ」 「待ってください一緒に寝てください」 ぶはあっ!! 「は?!何言ってんのバカじゃない?!」 「いやほんとお願いします」 それこっちの台詞だわーほんと勘弁してほしいわこの女ー……常識無し!!世間知らず!!散々殴りたいのを我慢してふううと溜め息をつく。落ち着け僕。というか今更だけど、今もどこかの部屋では浦原さんや阿散井が寝ているはずだ。見つかるのは大いに結構だ(だって僕悪くないし。むしろ引き取ってほしいくらいだ)けど、あの人達の眠りを妨害するのはよろしくない。自分がやられて嫌なことは人にやらない。まあはいろいろ別だけど。……はあ、しょうがないな。 「…君が寝るまで手繋いでいてあげるよ。それでいいだろ」 「ありがとうございます!眠いからってわたしより先にこっくりこっくりしないでくださいよ!」 「うんわかった僕がキレる前にさっさと寝ようか」 ほんと誰のせいだ誰の。 が頭から布団を被り、そこから出た手に重ねるだけして壁に寄り掛かる。くぐもった声で、あれを一人で見る羽目になったのはテレビでやっていたほんとにあった何とかって番組で大層びびったのを阿散井にいじられ、強がったら雨って子にあれを勧められあとに引けなくなったとか何とか。留めに「怖くないなら夜一人で見ても大丈夫っスよね」と浦原さんに言われたらしい。あの人も何してるんだ。暇すぎるだろ。 なんで僕を呼び付けたと聞いたら「弓親さんが一番来てくれそうだったから」だそうだ。上司をなんだと思ってるんだこいつ。 「…ほんと、僕に感謝しなよ」 「今度何か奢ります」 そのあと間もなくして眠ったを何回か呼び、返事がなかったので帰ろうと手を離したらぴくりと動いた気がして、起きたのかと思い布団を退けて顔を見たけれどぐっすり眠っているようだったから「………」そのまま部屋を出た。 「あー疲れた、……」 寝顔を見たことが、悪いことのような気がした。でも順を追って考えても僕はどこも悪くなくて、でも思い出すと頬が熱くなった。怖くて助けを求めたのが僕でよかったと思ってる自分が謎だ。 |