個人的には闇討ちのくせに思いっきり名乗るという斬新な手を使った頭悪いのかズル賢いのか判断に迷うラインだけど多分頭悪い方に天秤が傾く紅帝学園とやらに腹を立てているわけで、そいつらを一発、いや五、六発くらい殴る権利はあるんじゃないかと思うのですよね。親善試合を棄権せざるを得ない程度に。


「で?頼みって何かしら?」
「大体想像はついてるけど」


試合を明日に控えた今日、わたしと弓親さんと乱菊さんは突然一角さんに呼び出された。学校の屋上に向かうと、剣道着姿の一角さんと制服を着た啓吾くんが何やら揉めている。剣道部のみなさんはあれから一角さんに猛特訓を強いられてるらしく、弓親さんからその話を聞いたわたしはまああの人ってスパルタだから仕方ないよねと思っていたのだけれど、今日ここへ来るまでに弓親さんは更に推測を深めたらしく、呼び出された理由を「大方一角の限度ってものを知らない猛特訓のせいで剣道部員が音をあげたんじゃない?で、代わりに試合に出るよう頼むため僕らを呼び出した、ってとこかな」と自信ありげに言っていた。なんと、紅帝学園を棄権させてやろうと思った矢先にこちらが棄権の危機だと言うのだ。もしそうだとしたら大変じゃないか。
その見解が正しいのかはわからないが、大体想像はついてると言った弓親さんに一角さんも「だったら話は早い」と異議を唱えなかったので本当に正解なのかもしれない。しかし一角さんにとっての問題はそこではなかった。


「おめえら、週末の親善試合に」
「「出ない」」
「なに?!」


弓親さんと乱菊さんによる見事なハモり。完全拒否だった。


「出ないに決まってんじゃない」
「そうそう。出るわけない」
「だからそこをなんとか頼んでんじゃねえか」
「それはわかってるけどお〜」
「頼めるの僕らしかいないだろうしね」
「じゃなんで出ねえんだよ!」
「「防具が臭いから」」
「なに?!」
「「防具が臭いからー!!」」
「……はあ?!」


つまりまあそういうことである。弓親さんの後ろにいたわたしからは何とも言えないが、二人が口を揃えて言うくらいだから臭いのだろう。弓親さんがこないだ防具とか絶対つけたくないと言っていた理由はこれだったらしい。わたしはべつに出てもいいのだけど、またもや彼に腕を引っ張られ強制退場させられた。いよいよ解せない。


「わたしにも選ぶ権利を」
「ダメよお、あれ被ると髪にニオイ移るのよ」
「そこらへん気にしないんで」
「少しは気にしなよね。大丈夫だって、僕らが断ったって日番谷隊長も阿散井も茶渡もいるんだし。最悪浅野啓吾も出させるでしょ」
「人の役に立てるチャンス」
「そんなことより、これからどっかお茶しに行きましょうよ」
「それもそうですね!」


あっさり乱菊さんのお誘いに乗ってその足で商店街に繰り出した。三人でお茶するのは初めてで、とても楽しかった。

夕方、浦原商店に帰ると、反対方向に一角さんが遠ざかって行くのが見えた。声を掛けようとしたけれど、昼間強制的に断って自主的に楽しくお茶していたことが少し後ろめたくて、今回わたしは舞台袖にいようと思った。というか実際、剣道のやり方未だに知らない。一応、一角さん何の用だったんですかと浦原さんに聞くもはぐらかされてしまい、結局わからずじまいだった。





「これより、空座一高対紅帝学園の試合を行います」


わたしたちは空座第一高校の応援席にいた。弓親さんの読み通り、メンバーは日番谷隊長、阿散井副隊長、啓吾くん、唯一の剣道部の人、一角さんという顔ぶれになっていた。茶渡さんは来なかったんですね、と呟けば隣で乱菊さんが「一角の賄賂を受け取らなかったらしいわよー」と至極にこにこした様子で教えてくれた。なるほど、昨日一角さんは賄賂を渡しに浦原商店に来ていたのか。

先鋒と言うらしいが、こちらの一番手は日番谷隊長だった。一人だけやたら小さいなー身長差半端ないなーと思っていたら速攻で一本取ったのでやっぱり隊長職は伊達じゃないなと思う。弓親さんと乱菊さんと一緒に日番谷隊長の元へ行く。


「お見事!」
「ふふっ嫌だって言ってたくせに」
「一本取れる身長差でよかったですね。あれより高かったら日番谷隊長…」
「うるせえ黙ってろ」


きゃっ怖い。三人揃ってグーにした両手で口を隠す仕草をしたら乙女すぎて面白かった。
次の啓吾くんは思いっきり逃げ回っていたけれどなんだかんだやられてしまった。今審判の言うことに反応してなければもう少しいけたんじゃないか?


「おしい」
「どこが。……!」
「お?」


三番目の阿散井副隊長が位置についた瞬間、外で異変を感じ取った。霊圧探査は苦手だけど、これだけ大きな揺れならさすがにわかる。虚が出たのだ。阿散井副隊長はすぐさま一本取り、わたしたちも義骸を脱ぎ現場へ向かった。


「大虚だ…」
「口開いてるよ」


町中にそびえ立つ大虚を見上げる。おわー大虚ってなかなか見ないからレアだなあ。可愛いのか不気味なのか微妙なシュールな顔してるんだなあ。ぼけーっとしていたら阿散井副隊長と乱菊さんと一角さんが斬魄刀を解放し、二人が胴体を攻撃、一角さんが仮面を一突きしてさっさと片付けてしまった。「あれ、わたしの出番!」「突っ立ってたが悪い」「ちっ!」舌打ちしていると隣に一角さんが降り立つ。どこか物足りなさげだ。


「藍染が崩玉を使って破面を作り出してる割にはザコばかりだな。…おっと!それどころじゃねえ!」


一目散に来た道を引き返す一角さんに遅れてみんなも戻った。体育館に着いたときにはこちら側の剣道部の人が一本取っていて、「空座一高対紅帝学園親善試合、三対一で空座一高の勝ち!」うちの勝利が宣言されていた。おーおめでとー。
が、しかしそこで納得しないのが十一番隊である。大虚討伐のいいとこ取りをしたにも関わらずまだ出番を欲しがる一角さんは、異議を申し立てるべく審判と啓吾くんと剣道部の人の元へズカズカと詰め寄ったのであった。


「待て待て!俺の出番はどうなるんだよ」
「え?」
「だって、俺らもう勝ちっスから」
「一角さんのお手を煩わせるまでもなく、勝てました。…あなたの一言一句、一生忘れません。本当にありがとうございました」
「おう、そらァよかったな。…で、俺の出番はどうなんだ」
「三対一で空座一高の勝ち。よって、出番はなし!」
「なんだとォ?!」


持っていた竹刀で審判をぶっ叩いた一角さん。驚いたリアクションにしては些かオーバーではとびっくり仰天してしまったけれど彼の様子を見るに怒ったらしいので納得する。十一番隊はだいたい喧嘩っ早い。


「大将はどこだ!討ち取ってやる!」
「こいつです!こいつが大将の五十嵐くんです!」


みづ穂さんが指差した先には細っこい男の人がいた。その五十嵐くんとやら、昔みづ穂さんを振った男らしく、実はこの親善試合が彼女の私怨だったことが判明した。そんな細かいことはどうでもいいから戦いたい一角さんが無防備な大将の脳天に一本叩き込むと、まさかのまさかでカツラが取れたではないか。お?!ちょっと笑いそうになったけど深い理由があるのかもしれないからノーリアクションを貫くわたし。大将のカツラが取れたことで相手方はブチ切れてしまったけれど、それを更に挑発するのが十一番隊三席の一角さんである。


「来い…全員まとめて打ちのめしてやるぜェ!」
「きゃー!ダーリーン!!」


乱闘が始まった。さっきから見てるだけでつまらないので、啓吾くんと日番谷隊長が使っていた竹刀を拾い一本を弓親さんにあげた。それだけで意図に気付いた弓親さんも生粋の十一番隊だと思うよ。


「加勢するよ一角!」
「きゃーダーリーン」
「だからダーリンじゃないって言ってるだろ!」


威勢良くわたしたちも混ざり、体育館は荒れに荒れた。視界の隅で日番谷隊長が「アホらしい。帰るぞ」と言い乱菊さんを連れて帰っていくのが見えた。それには気にせず男の腹に竹刀を叩きこむ。

結果、当然の如く我々の大勝利を収めた。久々に身体を動かして満足の帰り道だった。やっぱり厳かな剣道よりも、型のない剣術の方が楽しいなあ。


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