あんな時間から寝たら朝早く目覚めてしまうのは仕方なかった。目覚まし時計は六時を指していて、あーよく寝たと起きる。二度寝したら逆に疲れると直感したのだ。あのくらいの疲労じゃ丸一日寝るのは無理なんだなあ。昨日夜ご飯を食べずに死んだのでお腹が半端なく空いていた。手櫛で適当に髪を梳かし、居間へ向かう。この時間なら大人の三人は起きてるだろう。ジン太くんと雨ちゃんはまだ寝てるかなあ。


「おはようございます」


襖を開けると寝巻き姿の阿散井副隊長と鉄裁さんと浦原さんがちゃぶ台を囲んで朝ご飯を食べていた。「おーす」「おはようございます」「おはようございますサン」三人から挨拶を返され、へこっと会釈をする。すぐに鉄裁さんが立ち上がり台所に消えたところを見るに、わたしの朝ご飯を用意しようとしてくれるのだろう。さすがにそこまで図々しくないので自分でやりますと申し出たけれど丁重に断られてしまった。あうち…と立ち尽くしていると浦原さんにまあまあと座るのを勧められ、おとなしく正座した。


「破面もどきの件は無事片付いたみたいっスねえ。お疲れさまでした」
「はあ、まあ…」
「で、どうだったんスか?」
「えー……破面もどきは日番谷隊長たちが倒しました。あ、そうだ、奴は藍染隊長の手引きじゃなかったみたいで、魂魄吸収によるただの突然変異だろうって日番谷隊長が」


説明は苦手だった。昨日あったことを思い出してみるけれど分身体との戦いで足場を崩しまくった記憶が強くて何を言えばいいのかわからない。というか、総じてわたしはこの件の重要なポジションにいなかった気がするのだ。そんな立場から一体何を伝えろと。とりあえず日番谷隊長から聞いた情報を並べてみると、浦原さんはわかっていたかのように頷いた。


「でしょうねえ。藍染が関わっているなら、こんな温い手段は使わないでしょうから」
「そんなもんですか」
「そんなもんです」


軽い口調で返した浦原さんはもう一度、お疲れさまでしたと言った。それに肩をすくめ、当分は待機か?と聞いた阿散井副隊長に頷く。そのあとタイミングよく持ってきてもらったご飯をありがたく頂いた。
にしても、今日からどうしよう。事件が片付くと途端に暇になってしまうのは何とかしてほしい。とかいって、働きたくはないのだけれど。
茶渡さんが来たタイミングで充てがわれた部屋に戻り、のんびり洋服に着替え部屋でボーッとしていた。そのあとジン太くんと雨ちゃんが起きたことを聴覚で捉え、布団を畳み、二人が朝ご飯を食べ終えたのを確認したあと鉄裁さんに無理を言ってお皿洗いをやらせてもらい、そのあと目的もなく外に出た。果たして待機とは何なのだろうか。

あ、前に言われた、技を磨けってことか。そのことに気が付いたのは啓吾くん家への道をとぼとぼ歩いていた頃だった。なるほど、技を……。三秒考えて、今日は働きたくねえとの結論が出たので却下した。


「あ」


硬いコンクリートなるもので舗装された道路をぶらぶら歩いていると、向かいからどこかで見たことのある男の子が歩いてきた。ああそうだ一護死亡事件のときの男の子だ。向こうもわたしに気付いたようで、お互い同時に立ち止まった。


「…あ、こないだの」
「あの節はお世話になりました」
「いえ全然。一護死んでなくてよかったですね」
「全くですね」
「一護の知り合いなんですか?」
「そうなんです。そちらは?」
「友人です」
「へえ。あ、です」
「あ、小島水色です」
「変わった名前ですね」
「よく言われます」


ううん、なんか水色くんて……


「声、上司に似てます」
「そうなんですか?(バイトしてるんだ)」
「はい」
「…さん」
「ん?」
「携帯の番号交換しません?」
「(携帯の番号…ああ伝令神機のことか!)いいですよ」
「じゃあ僕から送るんで」
「はい」


現世の人とも連絡が取れるよう最近の伝令神機は改良されてるらしい。浦原さん家に連絡ができるのもそのためである。珍しく伝令神機持っててよかった。にしてもほんと水色くんて声弓親さんに似てるなあ。弓親さんより大人しくて礼儀正しいなあ。さんだって!弓親さんより上に立ったみたいだよふふん鼻が高いぜ。


「今度ご飯食べに行きません?」
「いいですよ!」
「いつ暇ですか?」
「えーわかんないですけど基本暇です」
「あ、そうなんですか?(バイトは?)」
「いきなり仕事入るかもしれないんですけど」
「あ、なるほど。じゃあ適当に連絡します」
「はい!」
「さようならー」


今度水色くんに弓親さんが絶対言わない台詞言ってもらおう。例えば何だろう。イインダヨ!グリーンダヨ!かな!


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