さっき帰ったんだよね?どこまで話した?」
「いえ、すぐ持ち場に戻ったので何にも話してないです」


弓親さんはわたしのペースに合わせて走ってくれている。わたしが六席でこの人が五席であるのは変えようのない事実なので、そこに実力差が存在することは認めてる。じゃなかったら今頃わたしは空席の四の肩書きを持ってるはずだし、事実、手合わせをしてもまだ弓親さんには勝てないのだ。実に悔しい。
話は戻るけど、先ほど浦原商店に戻った際会話を交わしたのは雨ちゃんだけで、ジン太くんは裏の掃除をしていたし鉄裁さんは台所だったし浦原さんはおそらく地下勉強部屋で阿散井副隊長と茶渡さんの修業を見ていたようだったので、本当に彼女と「おはよう雨ちゃん」「あ…おかえりなさいさん」「伝令神機取ったらすぐ行くので」「は、はい」って会話しかしなかった。それを言ったら弓親さんはあからさまに呆れた顔をしてああそうと言った。


「使えないとか思いましたか」
「うん」
「正直ですねまじ綾瀬川死ね」
「君には負けるよ」


浦原商店に着き浦原さんに顔を見せてから、爆睡していた阿散井副隊長を起こした。今日は茶渡さんは帰ったようだ。あとから鉄裁さんも来て御三方に弓親さんが事の次第を説明すると、物分りのいい浦原さんが率先して「わかりました。こちらもできる限り対処はしますね、よろしくお願いします阿散井サン」と驚きの丸投げをしてみせた。


「チッ…わかってますよ。でも弓親さん、俺はそっちと合流しなくていいんスか?」
「日番谷隊長は言ってなかったよ。多分茶渡の修業をつけるのに専念して欲しいんじゃないかな。君も疲れてるでしょ」
「あ、いや…そっスか。ありがとうございます。でも何かあったらすぐ駆け付けますんで」
「よっ!さすが六番隊副隊長!」
「黙ってろ」


手持ち無沙汰だったから盛り上げたのに弓親さんに叩かれた。解せぬ。


それから日番谷隊長と合流し、今度はわたしと弓親さんが組んで見張りをした。一角さんは一人で啓吾くん家に戻ったらしい。そういえばずっとわたしの身体を任せてる改造魂魄は無事だろうか。こないだ乱菊さんに聞いたらアヒルのあれはユキというらしい。可愛い名前だなあ。
それからまた一角さんと日番谷隊長と交代をして、弓親さんもいることだしと一緒に啓吾くん家に帰った。着いて部屋を覗くとユキさんはぐーすか寝ていたので、なんだあと思い義骸に戻ってわたしも寝た。
でも二時間後にはまた起きたので全然寝た気がしなかった。夜が明けたら日番谷隊長が翔太くんたちの様子を見るため一旦戻るので、昼まで十一番隊の三人で警戒にあたることになっているのだ。最近見張り続きで寝不足がやばい。この件が片付いたら一日中寝てようと思う。

朝の見張りを始めてすぐ、伝令神機に反応が来た。おっしゃー来たぜー!と昨日と同じく歓喜しその場所に向かう。お、これは、遠いぞ……。

やっとの思いで着く頃には、空には見渡す限りの破面もどきがいた。何匹いるんだこれは。絵面的に気持ち悪くて今なら弓親さんの気持ちがわかる。どうやら分身体の親玉はすでに亜空間に身を隠してしまったらしく、こちらからは声しか聞こえない。ここら一体の魂魄はもう食い尽くしたから次は人間を食らうと宣告し散り散りになる分身体。「待ちやがれ!」意気込む一角さんがそれを追い駆けようとする。と、日番谷隊長にストップをかけられた。


「待て、斑目。一匹一匹斬っていても埒があかねえ」
「そうかもしれませんが、ほっとくわけにも行きませんでしょ。俺たち十一番隊は戦闘部隊。七面倒くさいこと考えてるより、霊力が続く限りあいつらを潰します。行かせてください!」
「その間に日番谷隊長は方法を」
「…わかった」
「行くぜ!」
「ああ!」


一角さんと弓親さんに続く。一角さんの意見には大体賛成だし解決策を練り出せるわけもないから、戦っていればいいならそれに越したことはない。
しかし破面もどきを追った先での戦闘がほとんど空中戦だったのには参った。おととい落下したように何回も足場を崩した。

どのくらい戦っていたのかわからないけれど、突然遠くで巨大な氷柱が見えたと思ったら破面もどきたちが消滅した。十中八九、日番谷隊長たちが本体を倒したのだろう。なんだかわたしとしては実に呆気ないけれど、遂に終わりかあ。ふーっと肩の力を抜いて斬魄刀をしまった。


「疲れたー」
「日番谷隊長たちと合流しよう」
「おう」


まじか。もう帰れるかと思ったのに。気が進まないながらもついて行くと、河原には日番谷隊長と乱菊さんしかいなかった。そういえばドタバタしてて気付かなかったけど、さっき唯ちゃんはどこにいたんだろう。今は翔太くんもいないし。


「乱菊さん、翔太くんと唯ちゃんは?」
「…翔太は今魂葬したわ。唯ちゃんは…」
「破面もどきに吸収された」


え。目を見開くと、日番谷隊長は事の顛末を説明してくれた。
今まで一緒にいた唯ちゃんは破面もどきの分身体だったんだそうだ。もともと強い霊力を持った人間だった唯ちゃんを食らったことにより、破面もどきは分身体を作る力を得た。織姫ちゃん家の結界を破った唯ちゃんは同じく高い霊圧を持った翔太くんを連れ出し、彼を吸収しようとしたらしい。結局それは叶わなかったけれど。
更に破面もどきは尸魂界からわたしたち先遣隊が来たことを知らなかったらしく、つまり藍染隊長の手先でもなかったんだそうだ。突然変異だと日番谷隊長は読んでいる。


「へえ、なんだあ」
「とにかくこれで一件落着だな」
「だがまたこういうことがあるかもしれねえ。警戒は怠るなよ」
「隊長、とりあえず今日のところは解散にしますか」
「ああ。それじゃ、各自戻って疲れを癒すように」


全員それに応答し、解散する。もう夕方で、浦原商店に着くと挨拶もそこそこに即行で布団にダイブした。ひどく疲れたのだ。うつ伏せた状態のまま寝てやろうと思っていると、近くに鉄裁さんが来て「今日はお手伝いいかがなさいますか」と聞いてくださったので、「無理です」と丁寧に返してそのまま寝た。


top|20|