見張り一日目は何事もなく終わるかと思われた。明るい時間帯は基本全員で街の警戒に当たったものの、破面もどきどころか虚一匹出てこなかった。朝になってから浦原商店に一度帰って伝令神機を取りすぐに持ち場に戻ったのにあまりに暇だったので、近くにいる整の魂魄を魂葬する作業を独断で行っていたくらいだ。ときどき弓親さんや一角さんに会ったけれど状況は他の人も同じらしく、流石に魂葬乱発はわたしくらいのものだったにせよ、みんなそれぞれ暇を持て余しているようだった。それでも警戒中ということを重々承知しているからか会話もそこそこに別れてしまうのでつまらない。誰かわたしの相手してくれよ、と思ったときふと一護が頭に思い浮かんで会いに行こうと決めたもののどこにいるか知らなかったので断念した。

今日だけで二十人くらい魂葬した気がする。尸魂界とのバランス大丈夫かな。ちょっと心配になったその夜、突然伝令神機が鳴りだした。画面には赤いマークが点滅している。


「来たー!」


人知れず歓喜してマークの示す方角へ走る。結構近いぞ。相変わらず霊圧探査はクソがつくほど下手なので虚なのか破面もどきなのかは判別つかない。だとしても何でもいいので走った。

最初に現場に到着したのは弓親さんだったようだ。それからほとんど同時に着いたわたしたちは四体の破面もどきがいるのを確認し、散り散りに逃げて行くそいつらを四人で手分けして追うことになった。
しかし逃げ足の速い破面もどきにあっという間に撒かれてしまう。悔しくて地団駄を踏むも、やっぱり霊圧は追えなかった。伝令神機にも何も反応がない。整の魂魄が近くに座り込んでいたけれど魂葬する気分じゃなかったのでシカトしてやった。噂に聞いたことがあるキャビンアテンダントみたいな格好したお姉さんだったけど、なんでこんなところにいるんだろ。

しばらくして弓親さんから織姫ちゃん宅に再度集合という連絡を受け戻った。どうも唯ちゃんが脱走を図ったらしい。見た目にそぐわずアクティブだな。

集合すると、一角さんだけは街の警戒を続けているらしかった。乱菊さんからの報告を聞くと、どうも破面もどきと最初に遭遇したのは唯ちゃんだったということがわかった。でもどうして助かったのか謎な上、唯ちゃんも何も覚えていないんだそうだ。


「日番谷隊長はどう思います?」
「……」
「隊長?」
「…そういうことか。俺の方でも一つわかったことがある」
「今の話に関連することですか?」
「ああ」


だんだん話がこんがらがってきた。悩めるわたしの脳みそに追い打ちをかけるように日番谷隊長が話を始める。破面もどきは人間の魂魄に変身して霊圧を隠し、尸魂界の目から逃れていたんだと。……人間の魂魄?思わぬ潜伏方法にぱちぱちと瞬きする。弓親さんが首を傾げて「どうしたの?」と聞いてきたけど、首を振っておいた。もしかして、さっきのキャビンアテンダントの魂魄、それだったのかも。くそっ!やられた!また地団駄を踏みたくなった。
あ、でもじゃあ、日中むやみやたらと魂葬してたのは魂魄を守ることに繋がったんじゃ?おおグッジョブわたし。

日番谷隊長が続けるには、破面もどきは食らって得た霊力でさらに分身しているということだった。そこで乱菊さんがまさか?!と言い唯ちゃんに振り返る。は、そうだよ唯ちゃん、もしかして破面もどきの分身体なんじゃ。真偽を確かめようと、日番谷隊長が嫌がる彼女に半ばむりやり斬魄刀の後ろを押し付けた。


「……魂葬できない…?」


唯ちゃんは尸魂界に送られなかった。つまり、破面もどきに何かされているということ、だそうだ。へえそこに直結するのか。それを調べるために技術開発局に霊圧を調査してもらうことになり、日番谷隊長は通信を始めた。弓親さんがパソコンのような機械をいじり、乱菊さんが唯ちゃんに解析に必要な装置を取り付けていく。例によってわたしは暇を持て余すことになったけれど、画面の向こうでは阿近さんが応対し数分後、解析の下準備が完了したようだった。


『これで必要な霊子のサンプルはすべて頂きました』
「すまないが、急いで頼む」


それから唯ちゃんは結界の中に置いておくことになった。可哀想だと抗議する翔太くんをかわし乱菊さんが唯ちゃんの首に小さなオカリナのついた首飾りを掛けてあげると、それで安心したらしい彼女は結界の中にいることを了承し、翔太くんも納得したようだった。


「さて、話が決まったところで、僕は一角と交代してきますよ」
「いや、斑目とは俺が交代する。綾瀬川はと浦原商店に行ってくれ」
「浦原商店?」
「阿散井にも状況を伝えてきてくれ」
「はい」


朝行ったときはすでに阿散井副隊長はいなかったので何も伝えられていなかった。この時間ならもう修業は終わってるだろうし、もしかしたら破面もどきが浦原商店にも現れるかもしれない。さすが隊長なだけあって、この人の指示は的確だ。


「敵の動きが読めん……気を抜くな」


頷いて、織姫ちゃん宅を発つ。


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