「ひどく眠い」
「文句言ってないで。早く義骸脱ぎな」
「はいー…」


信じられない。気持ちよく寝ていたら叩き起こされた。布団から顔を出した途端弓親さんに静かにと声を潜めて言われ、時計を見てみると時刻は十二時だった。おいどういうことだ。回らない頭を動かそうとしている間に二人はさっさと義骸を脱いで死神の姿になっていたので、日番谷隊長から出動要請でもあったのかと考える。


「さっきの破面もどきの霊圧反応がある。行くよ」
「……はい」


ああなるほど、破面もどきの。…………なんで?
乗らない気分に鞭を打ち夜を駆ける。夕方一角さんが倒したはずの破面もどきがどうして。実は倒せてなくて、逃げられてたとか?考えても解決にはならないのでとりあえず二人のあとを追うことにした。
とあるビルの屋上にて目標の破面もどきを発見し、また一角さんが切り込んだ。すぐに消滅する、が、


「数多くないですか」


辺りには無数の破面もどきが。全部から同じ霊圧が感じ取れる。そしておととい一角さんが戦った破面の霊圧をぼんやり思い出して、確かにあれと比べて濁ってるなとも思った。手始めに襲ってきた破面もどきを斬ってみる。一撃だ。こりゃ確かに一角さんの敵じゃないなあ、準備運動にもならんわ。これどうしますかと聞こうと弓親さんに振り替えると、どうやら日番谷隊長たちと連絡を取っているらしかった。


「こちら綾瀬川。現在、破面もどきと交戦中。先程破面もどきの霊圧を確認。反応を追ってこれと遭遇……ていうか、どういうことなんですかこれ。昼間一角が斬った奴ですよね」
『ええ、つまり……隊長』
『斑目、綾瀬川、、こちらも戦闘中だ。奴らは増殖する。各自、一匹残らず殲滅しろ』
「…だってさ」
「へっ。その方がわかりやすくていいぜ!」


確かに脳みそ筋肉の一角さんにはわかりやすくていいですね!とでも言ってやろうかと思ったけれどそんな余裕はなく、襲ってくる破面もどきを片っ端から倒していくことしかできない。視界の隅で分裂されて投げ出したくなる気持ちをぐっとこらえ、仕方なしに二人より少ない運動量で、二人より少ない数の破面もどきを倒していった。

しばらくしてやっと視界に映るそれらはいなくなった。「日番谷隊長たちは夕方の公園に行ったみたいだね」つまりそこで合流しようということだろう。目はもう覚めていたけれど頷くのも疲れるのでノーリアクションで二人のあとに続いた。
着いてすぐ氷輪丸が蒼天に坐したのが見え、そこへ向かうと園内の開けたところで日番谷隊長と乱菊さんと少年と合流できた。おーよかったよかった、と思っていると少年が突然駆け出したではないか。何事かと目で追う。


「あれは…!」
「翔太、どうしたの?!」


乱菊さんの呼び掛けで、少年の名前が翔太と言うことを知った。やっと教えてくれたのか。彼は脇目も振らずベンチへ駆けて行き、そこにいた魂魄の少女の肩を揺すった。気付かなかった、あんなとこに魂魄がいたなんて。


「ゆい、唯……唯!」
「翔太どうしたの」
「唯なんだ!オレの妹なんだ!」


なんと。





翔太くんの妹である唯ちゃんを保護するという名目で再度織姫ちゃんの家に連れて行くことになった。現在彼女は尸魂界にいるらしいけど、こんなに好き勝手使っていいものか流石のわたしでも躊躇うよね。
とにかくこれは徹夜決定かと思われ、十一番隊はお弁当を買ってくる任務を仰せ遣った。途中で別れてコンビニへ向かう。着くとすぐさまお弁当コーナーへ行きそれらを人数分カゴに放り込む、のを一角さんが担当し、弓親さんは飲み物コーナーへ、わたしはお菓子コーナーでお菓子を適当に放り込んだ。こういう食費も経費で落とせるから出張は嫌いじゃないんだなあ。日番谷先遣隊ばんざい。


「お弁当買ってきましたよー」


買い出し組が織姫ちゃん家に着く頃には唯ちゃんは目覚めていた。腹ごしらえをしながら、先程わたしたちのいない間に通信していた技術開発局からの調査結果を聞いた。
破面もどきは分裂して別の個体を作っているわけではなく、全部で一つの個体で、意識を共有している。そのため分身体を操る本体を叩く以外解決にはならないそうだ。破面もどきの目的は複数の分身体を同時に動かしたくさんの魂魄を吸収するところにあるらしい。能率的な破面もどきだな。

話し終えた日番谷隊長からの指示は、あらゆる事態に素早く対応できるよう、交代で街の見張りをするということだった。翔太くんと唯ちゃんの見張りは乱菊さんが命じられていた。まだ魂葬しないのか?同じことを考えたのか、一角さんは部屋の隅で大人しくしている二人を横目で見たあと、日番谷隊長に向いた。


「魂葬はしなくていいんスか」
「…いや、それはあとでいいだろ」
「…そっスか」
「なるほど。日番谷隊長は優しいね」
「あ?」
「兄妹がせっかく会えたんだから、しばらく一緒にいさせてやろうってことだよ」
「隊長…」
「うるせえ。…行くぞ」


でた日番谷隊長のツンデレ。にやにやするのを抑えながら翔太くんと唯ちゃんを見る。展開が展開だから困惑してるだけで、思ったほど悪い子たちじゃなさそうだ。ただ警戒してるのだろう、特に翔太くんは。
まあみづ穂さんと違って、今から打ち解けたって明日にでも魂葬されてしまうんだから意味はない。日番谷隊長が指示する見張りの当番を聞くため二人に背を向ける。わたしは日番谷隊長と二時間後の担当になった。それまでは仮眠を取るんだそうだ。


「じゃ、行ってきます」
「頑張ってくださいねー」


一角さんと弓親さんの見送りもそこそこに、織姫ちゃんの布団を借りて横になる。途端に眠気が襲ってきて、わたしはすぐに意識を手放した。


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