なんで?と思ったら聞く前に説明された。浦原さんの言い分では修業一日目で疲労困憊の阿散井副隊長と茶渡さんが寝室で寝ていて、わたしの寝る場所がないのだそうだ。それと破面もどきのことでも一晩は用心した方がいいとのこと。もう倒しましたよと言っても聞いてくれなかった。素早く日番谷隊長の指示を仰げるよう弓親さんたちと一緒にいた方がいいらしい。そんなこと言ったら普段はどうすればいいんだと聞けば普段は阿散井副隊長がいるからいいんだそうだ。ほんとかよ。


『じゃ、そういうことなんでよろしくお願いしますー。あ、戸口全部締めとくんで、帰ってきても無駄っスよー』
「なんだと!」


一方的に切られた。納得いかなかったけれど、浦原さんが屁理屈をこねてでもわたしを弓親さんたちのところにいさせようとしたのはなんとなく伝わってきた。掛け直すのもめんどくさいので仕方なく飲んでやろうと思う。


「ということでお願いします」
「…まあ僕はいいけど」
「んじゃ、行くぞ」


説明して、溜め息をついた弓親さんと一角さんと共に啓吾くん家へ帰った。





「おかえりダ〜〜リンッ!」
「…おー」


ドアを開けると待ち構えていたみづ穂さんが一角さんに抱きついた。ダーリン?そういえば昨日来たときもそんなこと言ってたような気が。ダーリンて何ぞや?彼女が一角さんに対してしか言ってないところを見ると弓親さんでは駄目なようだ。ううん、と考えるわたしの存在にみづ穂さんが気付いたらしくギカッと睨み付けられる。びびって姿勢を正す。


「何あんた!うちのダーリンとどういう関係よ!」
「あ、すみません。今晩ここに泊めていただけないでしょうか」
「はあ〜?」
「頼む。世話にはならねえから」
「ダーリンが言うならオッケー!」


一角さんやっべー!鶴の一声ってやつですか!とりあえずよかったよかったと胸を撫で下ろすと黙り込んでる弓親さんに気付いた。一角さんに夢中なみづ穂さんの前では基本弓親さんは黙ってるらしく、呆れた表情を貼り付けて何もしゃべらない。その方が楽だしと前言っていた。「弓親さん?」振ってみると表情を変えずに目だけでこっちを見て「ああ、よかったね」と言う。そういや啓吾くんはどこなんだろう。気になったもののみづ穂さんに聞ける雰囲気ではない。ていうかものすごく警戒されてる。威嚇ともいうだろう。怖いので彼女のことは一角さんに丸投げして、廊下を歩きながら弓親さんに話し掛けた。


「弓親さん、ダーリンって何ですか?」
「女が男に呼ぶ呼称だよ。恋人とか夫婦限定で」
「え?!一角さんの彼女?!」
「あの子が勝手に言ってるだけだから」
「なんだ」


部屋にいた啓吾くんが現れたのは夕食の時間だった。どうもーと緩い挨拶をしたのち、五人でみづ穂さんお手製のご飯を食べた。料理上手なんだなあみづ穂さん。わたしは密かに、初見で感じた印象のまま、彼女と親しくなりたいと思い続けているのだ。何かきっかけがあるといいんだけど。
お皿洗いを名乗り出るとみづ穂さんと一緒にやることになった。ガチャガチャ言わせながら奮闘しつつ横からの若干しつこい視線が気になり、ちらりとそちらに向けてみる。うわあめっちゃジト目。


「結局あんたダーリンの何なの」
「一角さんの……部下です」
「ふーん。…あ、もしかしてあっちの彼女?」
「あっち?」
「あの…何だっけ名前…おかっぱの方」
「ああ、ちが…」


弓親さんの彼女とか。うける。違いますと否定しようと……いや待てよ?そうしておいた方が都合がよくないか。みづ穂さんに誤解されないし、この先浅野宅にお邪魔する度みづ穂さんに警戒されるのはやりにくい。そうだ、冴えてるぞわたし!パッと彼女に向いて頷く。


「そうなんです。わたしのダーリンです」





思惑通りみづ穂さんは疑うこともせずやっぱー?それなら心配ないわーと態度を急変させた。まだ付き合いたてで日が浅いんですとか適当に設定しておくと、みづ穂さんは意気込んでカップルのテクとやらをいろいろ伝授してくれた。とにかく愛を伝えるのが大切らしい。なるほどみづ穂さんは有言実行だなあ。適当に聞き流し洗い物が終わると、明日早いのですぐ寝ますと言って部屋に戻った。一角さんを狙う人じゃないとわかったからか、彼女はあっという間に打ち解けてくれた。よかったなあ。グッジョブわたし。
ということで部屋に入ると同時に、みづ穂さんに聞こえるよう大きな声で叫んだ。


「お待たせダーリン!」
「…………は?」


バタンとドアを締める。これから怒られるのはわかっているのでみづ穂さんにバレるのを防ぐためである。つくづく今日のわたし冴えてる。さっきは置いてかれ続けたからなあ、ここで挽回だ。にこにこしながら弓親さんに言ったので「いきなりどうしたの」と本人はものすごく訝しげである。


「今後またここにお世話になることがあったときを考えて、みづ穂さんに威嚇されっぱなしはやりにくいと思いまして。弓親さんと恋人ってことにしときました」
「は?!」
「ちなみに付き合って日が浅い設定です」
「どうしてそうなるんだよ!」


はいはいやかましいなー弓親さん。この家でだけなんだから我慢しろよー。やんややんや騒ぐ弓親さんは一角さんにヘルプを出したものの、残念ながら彼はどうでもよさげだった。


「いいんじゃねえの?その方がめんどくさくなさそうだしよ」
「ちょ、待ってよ一角まで。冗談じゃないってそんな誤解」
「まあまあ。さあ寝ましょうダーリン」
「俺は別んとこで寝た方がいいか?」
「一角!!」


軽口を叩く程度には一角さん、楽しんでるようだ。一角さんさえ押さえればこのメンツなら問題ない。残念ながらこの設定、弓親さんには何のメリットもないのだけど、まあいいでしょう。とりあえず一角さんと弓親さんが布団を並べ、わたしはベッドを借りて寝転がる。気付けば時刻は十時だ。このまま何もなかったら朝にもう一度日番谷隊長のところに行って、少年の魂葬を見届けて終わりだろう。


「おやすみなさい一角さん」
「おー」
「おやすみなさいダーリン」
「……ほんと黙って」


地味に楽しい。


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