「いーーーやーーー!かーわーいーいー!」


誰かの絶叫で目が覚めた。バッと起き上がり声のした方を見る。弓親さんと一角さんが対峙しており、どうやらさっきのは弓親さんの叫び声だったらしく今も爆笑している。おそらく一角さんの身に何かあったのだろうけど、肝心の彼は背中しか見えなくてわからない。「ふははははは!!あの女、ほんと信じられないセンスしてるよグッ」あ、頭突き。「うるせえぞ。いつまでもギャーギャー騒ぎやがっ」「あっはっはっはっはっ!」あ、乱菊さん。いつの間に。


「まっままままま松本?!てめっどっから入ってきやがった!」
「玄関から。鍵空いてたわよ。随分不用心なとこに間借りしてんのねー、あんたたち」
「こんにちは乱菊さん」
「あら、やっぱりここにいたのね」
「はい」
「言っておくけどこんにちはの時間じゃないからね」


額の赤い弓親さんにそう言われ初めて窓の外を見ると真っ暗だった。それから時計を確認したら六時で驚いた。あれま、寝すぎたわ。まだぼんやりする頭で眠る前の記憶を辿ってみる。

あのあとここに帰ってきて、三人でご飯を食べながらどうでもいいような話をした。食べ終わると一角さんが包帯を巻いたままちょっくら振ってくると言って木刀持って出掛けてしまい、弓親さんも昨日の破面のことで技術開発局に用があるらしくパソコンを使い通信を初めてしまった。手持ち無沙汰になったけれど帰りたくなかったわたしは畳まれた一角さんの布団に寝転がろうとしたのだけれど、怪我人の布団を使うのは流石に気が引けたので、弓親さんの座布団とわたしの座布団と、部屋の隅に置いてあった座布団とを三つ並べて寝転がった。外はいい天気だったので日差しも気持ちよく、こりゃいいわーと横になっていたらおもむろに弓親さんがこちらに来た。何かと顔を向けると枕をくれた。「あ、どうもありがとうございます」「ん」それだけ言ってまたテーブルへ戻っていった。
なんとなく一角さんの布団の方を見てみたらきちんと敷き布団と掛け布団と枕が一緒に置いてあったので、どうやら弓親さんは自分のを貸してくれたようだ。奥に置いてある弓親さん用と思しき布団一式に枕がなかったので間違いない。一角さんは枕を誰かに貸すのをものすごく嫌がる人種なのかなとも思ったけれど、もし仮にそうならまず人の家のを借りられないはずだ。なのでおそらく、弓親さんの独断で自分のを貸してくれたのだろう。あの人ってこういうとこきっちりしてるよなあ。ありがたく使わせていただこうではないか。

そんなことを思いながらいつの間にか眠りについていたわけだ。そうだそうだ、忘れてた。今気付いたけど掛け布団が掛かっていたからどうせこれも弓親さんが掛けてくれたのだろうよ、世話焼きだなあ。一人だけ離れたところにいるのは嫌なので、布団を畳んでみんなのところに行こうと行動に移していると、乱菊さんと一角さんの「てゆーか、あんたこっち来て趣味変わった?」「家主からの貰いもんだコラァ」という会話が気になって一角さんを見た、ら。


「えー!かーわーいーいー!ぶはははははは!!!」
「今頃かよ!!」
…リアクションまで弓親に似てきたわね」


おもしろ!ちょうおもしろ!何その柄死ぬほど似合わねえー!弓親さんがめっちゃ嫌そうな顔で「なに、乱菊さんいつからいたの」とか言ってるの気にならないくらい似合わない!乱菊さんが「玄関入ったとこであんたの絶叫聞いたわよ」とか言ってるのも気にならないくらい似合わない!笑いすぎてお腹痛い!


「にしても、家主が用意する服素直に着てんのあんた!」
「ったりめーだ!寝床も飯もただで世話してもらって、これで着るもんに文句つけられっか!」
「そう?あたしガンガンに文句つけてるわよ?飯にも服にも」
「…おい、誰だ?あいつ泊めてる可哀想な奴は」
「ほら、あの子だよ、織姫ちゃん。他人事とは言え、流石にちょっと気の毒だね」


一角さんと弓親さんのひそひそ話はよく聞き取れなかった。浦原さん家での鉄裁さんの料理も支給品の洋服も大変満足しているから、わたしは幸せ者なんだなあと思う。乱菊さんがお世話になってる織姫ちゃんは一人暮らしだって聞いてるから、それでいきなり三人も増えてたら流石に迷惑だろうし、やっぱりわたしは浦原さん家に転がり込んで正解だったんだなあ。日番谷隊長は結局織姫ちゃん家に居候することになったのだよね?あの人素直じゃないから、強引な乱菊さんみたいな人が部下できっと内心助かってるんだろう、にやにやするなあ。


top|13|