派遣二日目の朝、隣の部屋から忙しない足音が聞こえてきたと思ったら突然襖が開け放たれた。どうやらジン太くんが雨ちゃんの手を引っ張って走っていたらしく二人はそのまま外へ出ていったではないか。何をするのかと思い追いかけ戸口から覗くと、ジン太くんが雨ちゃんの手を掴んだまま高く上げ「いっえーい!!」と飛び跳ねた。なんと。雨ちゃんの復活がそんなに嬉しかったのか、二人は何度も飛び跳ねている。彼女の方はなかなか表情を変えない子なので喜んでいるかはわからないけれど、取り敢えずジン太くんが喜んでるのは確かだ。可愛いなあ二人とも。
一人和んでいると奥から浦原さんに二人を止めるよう頼まれたので(居候の件は難なく承諾してもらった。なんだかんだで阿散井副隊長もご一緒するようだ。多分)仕方なく店を出て二人に声を掛けようとした、ら、久しぶりに見る人物が目に入った。


「はあ?茶渡の修業を手伝う?なんで俺が」


そう茶渡さんだったのだ。何故そんなよそよそしい呼び方なのかというと、藍染隊長の一件で一護と共に旅禍として扱われた彼の想像を絶する威圧感に思いっきり怖じ気付いた、というわけではなく、なかなか接する機会がなく今日に至るまでいまいち親睦を深められていないためである。よって茶渡さん。一護と同い年とか絶対嘘だと思う。
その茶渡さんが、浦原さんに修業を頼みたいのだという。それを浦原さんが朝ごはん中の阿散井副隊長に頼んでいるのである。ちなみにわたしも朝ごはん中である。鉄裁さんのご飯まじうま。


「だってー断っても帰ってくれる空気じゃないんですもん」
「答えになってねえよ」


なんだか結果が見えてるなあと思う。浦原さん絶対勝つだろうなあ、この人駆け引きが上手そうだ。反対に阿散井副隊長はそういうの下手そうだし。そういえば阿散井副隊長はここに居候するのは二度目だと言っていた。それならますます彼の扱いに慣れているだろう、浦原さん。味噌汁まじうま。


「とにかく、あんたが頼まれたんだからあんたがやりやがれ」
「よく言うよなー雨ー。結局また居候してるくせに、漢気ってもんがねえんだなー」


まさかのジン太くんが追い打ちをかけてくるとは。そうだそもそもこの場には阿散井副隊長を味方する人は一人もいない。完全なる四面楚歌である。ご愁傷さま。心の中で手を合わせて味噌汁を飲み干す。そうこうしている内に、阿散井副隊長は浦原さんの提示した条件を飲んで(味噌汁だけに)取引を成立させた。彼が三ヶ月雑用したら、浦原さんは阿散井副隊長の聞きたいことに何でも答えるというものだそう。そういえばこの人、聞きたいことがあるからってここに来たんだった。雑用には茶渡さんの修業の相手も含むらしく、それは無理だけれど、わたしも何かお手伝いしないといけないよなあと思う。タダで居候させてもらうんだし。焼き魚うま。

そうだ弓親さんとこ行かないといけないんだった。実は今まで寝巻きのままだったので着替えようとしたのだけれど、そこで自分が洋服を持っていないことに気が付いた。寝巻きも借り物だし。また制服着ればいいのかなあと考えているといつの間にか目の前にいた雨ちゃんにどうぞと紙袋を渡された。はてなマークを浮かべながら受け取り中を確認してみると、なんと洋服が五着分くらい入っていて半端なく驚いた。バッと振り返って浦原さんを見ると、扇子を扇ぎながら「支給品ですよー」と笑っていたので、ありがとうございますと叫んだ。いつの間に用意してくださったのだろう、ありがたや。

それから弓親さんに連絡を取って昨日の場所に着いたのが丁度十時半。先に着いていた弓親さんに、君のことだから忘れてると思ったよとか言われたので靴を踏んづけてやった。余計なお世話だ。


「それにしてもよく迷子にならなかったね」
「わたし方向感覚あるんですよ」
「よく言うよ。瀞霊廷でしょっちゅう迷子になるくせに」


弓親さんてどうしてこうも人の気に障ることを言うんだろう。そんなに靴踏んでほしいか!もっかい踏むぞ!

そこから五分くらい歩いたところにあるマンションとやらの一室が啓吾くん家らしく、誘導されるがまま上がらせてもらい居間へ案内された。そこでは布団の上で一角さんが上半身を包帯でぐるぐる巻きにされた状態で寝ていた。よく思うんだけどこの人上裸でいること多いよなあ。男だらけの十一番隊に在席しているおかげで男の人の上裸は嫌というほど見てきたため今更恥ずかしいとか思わない。というか最初から思わなかった。
「一角さん寝てるんですか?」聞いた途端目を開け起き上がったところをみると既に起きてはいたらしい。弓親さんと並んで座布団に座る。


「もう傷は大丈夫なんですか」
「ああ、昨日松本経由で織姫ちゃんに連絡取って治療を頼んだからな。したら何か小せえのが飛んできてそいつらが治療してくれてよ。もう大したことねえ」
「あ、織姫ちゃんのヘアピンの子たちですね。本人は来れなかったんですか?」
「浅野啓吾と知り合いらしいぜ。能力のことがバレるとまずいだろうってことで」
「なるほど」


確かに一般人にそうひけらかしてはよくないものだろう。それに本人が行かなくても治せるに越したことはない。織姫ちゃんも楽だしね。しみじみ奇特な能力だなあと思うよ。


「で、早速卍解の件ですが」
「ああ、それはだな、」


一角さんから説明されたことを一つ一つ丁寧に頭の中で整理しながら理解していく。と言っても難しい話ではなかったので話よりも徐々に痺れていく足の方が気になってしまったくらいだ。いきなり一角さんと弓親さんの流魂街時代の話が始まったときはどうしようかと思ったけれど、まあただの昔話だったし、そこから更木隊長とやちる副隊長が出てきたしでなかなか面白かった。そんな経緯で二人が護廷十三隊に入隊したとは知らなかったなあ。正直今まで全く気にならなかった。わたしが入った頃にはみんないたし。
ちなみに、阿散井副隊長は一角さんに戦い方を教わったことがあるらしく卍解のことも知っているのだそうだ。ということは昨日、阿散井副隊長と接したとき言いたいけど言えなくてそわそわする必要なかったのか。言ってよかったんかい。


「つーわけだから、黙ってろよ」
「はーい」


とどのつまり、一角さんは卍解ができると隊長職に引っ張られるから隠していて、隊長になりたくないのは更木隊長の元で戦って死にたいからってことでいいのだろうか。確かにそれが理由なら内緒にしておいた方がいいって思うよね。なんかこんな感じの話、前にも聞いたことある気がするけど。そんなことより足痺れて立てねえ。


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