さっきまで緊張感の欠片もなかったが、その言葉を聞いた途端表情を硬くした。


「ゆ、弓親さん、隊葬って、一角さんやばいんですか」
「黙ってな」


わからないが可能性の話だ。斬魄刀を解放してから破面の攻撃力は爆発的に跳ね上がり、一角はさっきから一方的にやられている。空中で吹き飛ばされながら体勢を立て直し鬼灯丸を解放するも、まるで歯が立っていない。
地面に落ちた一角目掛けて破面が留めと言わんばかりに腕を振り下ろした。凄まじい衝撃。爆風がこちらまで来て危うく吹き飛ばされそうになる。咄嗟にを引き寄せ防ぎ、なんとか一角の様子をうかがう。……ああ、無事だ。


「よーく見とけよ……そんで誰にも言うんじゃねえぞ……」


「一角さん?」が小さく零した。一角の纏う空気が変わったのだ。


「そうか…使うことにしたんだね」


卍解を。


解号と同時に現れた大型の武器には素直に感嘆したようで「おお、すげえ」と口を開けていた。そういえばさっき引き寄せたままの肩を抱いている体勢だ。…離すタイミングなくした。
というか一角気付いてないのかな、が来てることに。一角が卍解できることは僕と阿散井しか知らないはずだけれど。


「弓親さん知ってたんですか」
「まあね」
「なんだ、水臭い」
「はいはい。いいから見てな」
「言われなくたって」


はそう言うと同時に僕の死覇装を掴んだ。それに意識を取られないよう、一角と破面の戦いに集中する。数分後、龍紋鬼灯丸の霊圧が最高にまで上がった。いよいよこれが最後の攻撃だ。
凄まじい衝撃音。のち、空から一角の武器の一部が落ちてくる。遅れて一角自身も地面へ落下。反対側へ落ちていった破面にはもう霊力は残っていなかった。一角が勝ったようだ。「勝ちましたか」「ああ。行こう」自然なタイミングでの肩を離し一角の傍へ歩み寄る。遅れてもついて来ているようだった。
一角は生きていた。満身創痍という言葉がぴったりな状態だったけれど、意識もあるし心配いらないだろう。
ふと、流魂街を放浪していた頃に更木隊長と初めて会った日を思い出した。倒れ伏した一角に掛けた隊長の言葉を反芻させ、小さく笑みを零す。


「やっぱり。生きてると思ってたよ、一角」


仰向けになった一角は笑っていた。


「ったりめーだ。今日の俺はツイてんだぜ。…最高にな」


「お疲れさまです一角さん」「うおっ?!おめェいたのかよ!」僕の後ろから顔を出したに一角は酷く驚いたようだった。今戦いのあとって感じのいい雰囲気だったのに台無しだ。自分だけ蚊帳の外だったせいか随分つまらなそうな顔をしている。仲間はずれもあるけれど多分、僕らがに隠し事をしていたことがつまらなかったのだろう。こういうときの彼女はわかり易い。


「さっき来ました。それより卍解できるなんて聞いてないんですけど」
「あ、あー…見たか」
、一角の卍解のことはみんなには内緒にしてね」
「え、なんでですか」


疑問ももっともだが、今ここで理由を説明するのは賢くないだろう。まずは一角の治療が先だ。そう言えばも納得したらしく間借りする約束をしたあの男を呼びに行ってくれたので、僕たちは近くに待機させていた義骸に入った。拠点にしていたビルの屋上で脱いでから代わりに入った改造魂魄についてくるよう指示しておいたのだ。
一角の腕を肩に回し立ち上がる。すると丁度良くと例の男が戻ってきた。


「よかったですね、啓吾くん家ここから近いみたいですよ」
「……ふうん…啓吾くんね。案内よろしく」
「はっはい!(殺気…!)」


はちょっと知り合えばすぐ馴れ馴れしくなるから気にするだけ無駄だ。仕方なくそこには深く突っ込まず、にこれからどうするかと聞けば「義骸もあるし、一旦浦原商店に戻ります」と答えた。


「そう。…まだ戦闘続いてるから気をつけてね」
「え、本当ですか」
「もう少し霊圧探査の能力磨いた方がいいよ」
「ですよねー。まあゆっくり戻ります」
「そうしな」
「あ、できれば明日にでもそちらに伺いますので」
「は?なんで」
「一角さんの卍解を隠す理由聞くためですよ。気になって夜も眠れんわ。怪我考慮してわざわざわたしが出向くんですから感謝してくださいね!」


こいつは自分の立場をいつになったら理解するのだろう。「ほんと態度でけえよなおまえ」言いたいことを呆れ顔の一角が代弁してくれたので僕は話を進めることにする。


「わかったよ。じゃあ浦原商店出たら連絡して。ここで待ち合わせしよう」
「はい。では」


四十五度の辞儀をしたあとは空中へ飛び上がりさっき来た方向へ歩いて行った。下を見ながら帰るのは明日の道順を覚えるためだろう。今は暗いし初めて見る街で道順を逆から辿るのは難しいはずだ。明日僕が浦原商店まで迎えに行く羽目になるかもしれないな。


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