毎年恒例のお誕生会は今回初めて、二人きりでの開催となった。歳は違えど秋深い同じ日に生まれた俺とちゃんは家族ぐるみで毎回一緒にお祝いしてたけれど、一人暮らしをしてるちゃんは今年の誕生日が平日なのもあって実家に帰ることを諦めたらしかった。ちゃんより先に、働き始めてから一人暮らしをしている俺はそんな彼女を憐れんだ、というわけでもなく、自宅近くのちゃんのマンションへ至極当然のようにお邪魔していた。
意気揚々とパーティ料理を買ってきたちゃんにお礼も兼ねて皿洗いを請け負った俺は、玄関へと続く廊下にあるシステムキッチンでそれを終えたあと、紅茶を淹れたティーポットやカップ、それからケーキをお皿に乗せてリビングへ持って行った。本日のメインだ。どっちがいいかと聞いた返事はまだ返ってきていない。
覗くようにリビングに戻ると、ちゃんは絨毯の上に体育座りをしてテーブルの前で小さくなっていた。俯いていて表情は見えない。おいしいご飯を頬張るちゃんは心から楽しそうだったけど、やっぱりお父さんやお母さんとお祝いしたかったんだろう。大学二年生になって一人暮らしに慣れても、週末は頻繁に帰ってるみたいだし。俺じゃまだ代わりになれないかあ、と苦笑いを零しながらトンとテーブルにトレーを置く。
「今年は二人だけだからさみしいかな」
なるべく優しい声でちゃんの様子をうかがう。ハッと顔を上げた彼女に不思議に思いながら、左隣に腰を下ろした。座っても俺のほうが背が高いので、ちゃんは丸い目をぱちぱちと瞬かせながら俺を見上げてる。もっと覗き込めば映った俺が見えそうだ。
「……」
「ちゃん?」
「…あ、ごめん!寝ちゃってた!」
今度は口を丸く開けて笑うちゃん。はしゃぎ過ぎちゃったかなあと頭を掻きながら、「あ、わたしショートケーキがいい!ありがとう〜」お礼を言ってそれを手に取る。フォークで切り取り口に持って行くまでの一連の動作を見て、変な様子はないなと確認する。
なぜかちゃんに対する不安が、一瞬よぎったのだ。じっと彼女を見つめながらティーポットから紅茶を注ぐ。気のせいだろうか。ぼーっとしてるだけかな。ちゃん昔からぼーっとしてるときあるし、杞憂かな。なんか、ちゃんがどこか行ってたみたいに思った。
「夢にタカ丸出てきたよ」
「俺?」
聞き返せばうんと頷くちゃん。夢に俺が出てきた、かあ…。それについて悪い気はしない。ちゃんの中にちゃんと、俺という存在が生きている証拠だ。いやあむしろ、二十年一緒にいて生きてなかったらさすがに悲しいなあ。
「夢の中で何してたの?」
「んー…よく覚えてないけど、お花畑にいたよ」
「お花畑かあ、それちゃんのお仕事の影響じゃない?」
「そうかも」
にこにこ笑うちゃんににこにこと笑い返す。かわいいなあ。妹みたいに可愛がってきた三つ下の女の子。俺にとって世界一大切な女の子。
冗談抜きでちゃんが赤ちゃんの頃から見てきた俺が他の人間に彼女を渡す気があるわけがなく、彼女の周囲には常に目を光らせてきた。その甲斐あってか今までにちゃんが他の誰かに心を傾けた様子はない。きっと俺が一番だろうという自負がある。早く俺のになってほしいんだけど、ちゃんを焦らせたくないし、まだ我慢かなあと思う。ちゃん、俺に気を許してくれてるけど、それが俺と同じ気持ちでいるっていう確信は持てていないのだ。
「お花といえば、明日ちゃんとこにお花買いに行くね」
「えっほんと?わたし夕方シフト入ってるよ!」
「じゃあその頃に行くね」
「わーい!」
ちゃんの働いてる花屋さんは俺の美容室から近いので、様子見ついでに店内に飾る花を時々買いに行くのだ。大きく手を挙げばんざいをするちゃんに俺も楽しみだなあと零せば一層笑みを深くした。ようし、明日の仕事も頑張れそうだ。
「あっ」
「ん?」
「夢の中のタカ丸に、「また来てね」って言われたなって、思い出した」
「タカ丸は夢の中でも優しかったなあ」幸せそうに頬を緩ませるちゃんに、うまく笑顔が作れなかった。再びよぎる不安。ちゃんが俺じゃないどこか別のほうを見ている感覚。
「チョコとショートケーキ、すきなほう選んでいいよ」「わーい!…毎年ホールケーキだったから変な感じだなあ」そう零したちゃんに、俺がキッチンから戻るまでそう時間は空かなかった。それなのに、あの数秒で彼女は眠り、夢まで見たと言う。……本当に?
ちゃん、さっき何を見てたの?
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