到着した爆弾処理班に事情説明をしたあと近くの警察署に向かった。そこには黄昏の館の一件で知り合った捜査一課の目暮警部と白鳥警部がすでに来ていて、早速と促され彼らに一連の事件について説明した。一通り話し終えると二人は深刻な面持ちでなるほど、と唸り、それから沈黙する。警察の方でもわかったことがあるだろう。得た情報を提示してもらおうとこちらから切り出した。


「使われたのはプラスチック爆弾ですか?」
「ああ。ラジコンの爆弾も、まだ調査段階ではあるけれどキャリーケースの爆弾も、どちらもそうだったよ」
「やはり……」


 空き地で見た青みを帯びたオレンジ色の閃光はプラスチック爆弾の特徴と一致していた。そしてこのタイミングでそれを使った犯行となると、「おそらく東洋火薬の火薬庫から盗まれたものだろう」目暮警部も同じ見解に至っていたらしい。いたずらなどではなく、電話の相手は間違いなくその犯人だ。白鳥警部は続けて手に持っていた警察手帳に目を落とし、ラジコンの爆弾は雷管をつけて衝撃爆弾に、キャリーケースの爆弾はタイマーを接続して時限爆弾にしてあったことを知らせた。


「タイマーが一時二十六秒前で止まった件については原因は不明だが、考えられることは二つある。一つはタイマーが故障を起こしてしまった場合。もう一つは犯人が何らかの理由により遠隔操作で止めた場合だ」
「それに、なぜ白馬くんに電話を掛けて来たのかも不明ですね」
「あ、いえ、それは僕でなく……おそらく警察への挑戦、かと」


 二人が驚いたように目を見開く。電話が掛かってきたくだりを説明すると目暮警察は険しい顔で唸った。「挑戦ならまだしも、警察への怨恨の場合犯人の特定は難しいですね」そう言って顔をしかめる白鳥警部を横目に、僕もまた推理を深めていた。最初から僕を狙った電話だった可能性もなくはない。しかし、犯人は始め警視総監である父の在否を聞いてきているところから、警察への挑戦と考える方が自然な気がする。ただそのあと僕と連絡を取っている間も変声機を使い続けていたということは、もしかしたら犯人は僕の知っている人間かもしれない。
 ……?なんだ、この感覚。最近もこんな感じになったときが……。
 いや、とりあえず置いておこう。顔を上げ、二人の警部に問い掛ける。


「他に何か情報はありますか?」
「ああ。ラジコンを犯人らしき人物からもらった女の子たちに似顔絵を描いてもらったよ」
「これです」


 差し出された紙を受け取る。帽子に長髪、長い髭。サングラスを掛けてコートを着ている男だった。見覚えはない、が、これだけ顔の隠れた風貌だったら変装の可能性も高い。「それと女の子たちの一人が、その男から何か甘い匂いがしたと言っていたよ。どういったものかまではハッキリと覚えていないらしいが」「匂い…?」とりあえず情報の一つとして留めておくことにし、今後の捜査方針をうかがおうとした。
 瞬間、ポケットの中の携帯が鳴った。室内に緊張が走る。画面には先ほどと同じ非通知の文字が並んでいた。通話ボタンを押そうとしたところで「犯人からだったら私に代わってくれ」目暮警部に言われ、頷いて押す。『よく爆弾に気付いたな』――犯人!目暮警部に目配せをし、スピーカーボタンを押して渡す。


「警視庁捜査一課の目暮だ。おまえの目的は何だ!」
『ほう、ようやく警察のお出ましか。いいだろう。一度しか言わないからよく聞け』
「…!」
『東都環状線に五つの爆弾を仕掛けた』
「! なんだと?!」
『その爆弾は午後二時を過ぎてから時速60キロ未満で走行した場合爆発する。また日没までに取り除かなかった場合も爆発する仕掛けになっている』


 すぐさま懐中時計を取り出し確認する。十三時五十分五秒。あと十分しかない。


『一つだけヒントをやろう。爆弾を仕掛けたのは「東都環状線の××の×」だ。×のところには漢字が一字ずつ入る。それじゃあ……頑張ってな警察ども』


 ブツンと通話が切れる。目暮警部は僕に携帯を返すと「とにかく本庁に連絡しないと」と電話を掛けた。なんだ…?犯人は楽しんでいるだけなのか?ただの愉快犯、いやそれにしては、環状線に爆弾なんて簡単にできることじゃない。何か目的があるはずだ。
 それに爆弾の場所。××の×とは一体…。「考えられるのは、座席の下、網棚の上、車体の下もありますね」白鳥警部が挙げていく可能性について考える。車内の中にあるのだったら回収は比較的容易だ。しかし車体の下だったとしたら、走行を止めずに回収するのは不可能だ。しかも速度感知装置がついているのだとしたら、車内より外についている可能性の方が圧倒的に高い。


 十四時を回る頃には、警視庁の要請で東都環状線の全車両を時速70キロで走行させることに成功していた。ひとまず爆発した車両はないとの情報に安堵する。


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