警察に緑地公園の爆弾について説明し終え米花駅に着いたのは十三時十分前だった。ばあやには悪いが広場の前で車を駐車していてもらい、降りてすぐさま二本の木の下を調べた。が、何も見当たらず、念のため土の様子を調べてみるが全体的にかなり踏み固められていてここ最近で掘り返された様子はなかった。一体どこだ?駅前広場の人数はさっきの公園ほどではなくとも、すぐ脇には道路が通っているし高架の線路もある。避難は車も含めたら間に合わない。絶対にここで爆発させるわけにはいかない――。
 ふと、反対側に植えられている木の近くのベンチの前で老婦人がしゃがんだのが目に入った。見ているとどうやらベンチの下に何かを見つけたらしく、そこにあったらしいピンク色のペット用キャリーケースをベンチに置く。手前のドアを開け、そこから出てきたのは白い猫だった。どうやら捨て猫だったらしい。
 ……待てよ、ねこ?木の下、木の根……ねっこ――ネコ!
 そういうことか!白猫に頬ずりしている老婦人に駆け寄りキャリーケースを見せてもらう。扉には白い貼り紙に「誰かもらって下さい」と書いてある。犯人の言ったことはこれか。ケースの中を覗くと、やはり時限式の爆弾が取り付けられていた。デジタル数字の表す時間は残り五分を切っていた。


「すみません、これお借りします」
「え?ええ」


 承諾を聞く前に踵を返し車に飛び乗る。「急いでそこの道を左折してくれ。高速道路の奥の空地まで行く!」「かしこまりました」ばあやが二つ返事で了解し発車させる。ギリギリ間に合うか微妙な時間だ。見た感じでもラジコンのより大きめの爆弾であるのがわかる。タイマー式である以上、解体できないのなら爆発させるしかない。

 高速道路沿いの道路までのカーブを曲がっていく途中、運悪く渋滞に捕まってしまった。この道を行けば空地はすぐだというのにこんなところで。タイマーはあと三十秒を――。
「ん?」ケースを覗き込む。ずっと見ても数字は残り二十六秒から動いていなかった。


「止まった?」
「本当ですかぼっちゃま?!」
「ああ。今のうちに急ごう!」


 ちょうど動き出した流れに乗って道を進んでいく。しかしなぜ。故障か?まさか犯人が故意で?咄嗟に辺りを見回すが周りは住宅やマンションと公園だけしかなく、それらしい人物は見当たらなかった。


「! 動き出した!」


 すぐにまたカウントを刻み始めたそれにいよいよあとがない。しかしこの距離なら。「ここで停めてくれ」道路の真ん中で停めさせケースを抱えて降りる。ばあやの制止の声を無視して反対車線を横切り、住宅と住宅の間を抜け草むらの斜面を駆け上がった。よし、誰もいない!無人を確認したのち、勢いよくケースを土手の向こうへ放り投げた。転がり落ちていくケースが川の手前で止まる前に、その姿は捉えられなくなった。

 激しい爆音と共に見えたオレンジ色の閃光。プラスチック爆弾だ、と思ったときには凄まじい爆風に煽られ、今駆け上がってきた斜面へ尻餅をついた。しかしそのおかげでそれ以上被害を受けることもなく、地響きを全身で感じながら収まるのを待っていた。

 落ち着いた頃ようやく、忙しない心臓と上がった息を整えながら慎重に土手の向こうを見た。円形の巨大な穴から黒い煙が立ち昇っており、それがそのまま爆発の規模を物語っていた。
 しかし、誰も被害には遭っていないようだ。はあ、と大きく安堵の息を吐き、服の汚れを払いながら立ち上がる。携帯を確認するが緑地公園以降犯人からの着信はない。代わりに、知り合いの警察官からの不在着信が十件を越えていた。


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