「ごめんなあ、平次のわがままに付き合わせてしもて」


眉をハの字にして言う和葉ちゃんに両手を振って否定する。昼食を摂り終えたわたしたちとほとんど同じくらいに着いた彼女とはこの駅で落ち合う約束をしていたのだ。ここからは男女別行動で、服部くんと白馬くんは義経と弁慶にまつわる場所を回るらしい。「誰がわがままや」不満そうに目を向けた服部くんと彼女の応酬が一通り済み、早速、ほな行こか、と服部くんが踵を返そうとしたところで、和葉ちゃんの待ったが掛かった。三人の視線が彼女に集中する。


「…ちょっと白馬くん借りてええ?」
「え?」
「僕ですか?」
「なんや自分、白馬に何かあんのか」
「ええから。白馬くんこっち来て」


白馬くんの方へ踏み出し、少し離れたところへ連れて行く和葉ちゃん。どうしたんだろう?目を丸くし、無意識に首を傾げていた。二人はわたしたちに背を向けて何か話しているようだった。「なんやあいつ…」あからさまにつまらなさそうな声に、服部くんを見上げる。


「気になるよね」
「そりゃー…て、ちゃうわ!べつに気になんかなっとらんわあんな女!」
「お、おお…」


まだ何とも言ってないんだけどなあ…。こりゃー両想いの可能性濃厚ではないだろうか?無人島事件のときも思ったけれど、幼なじみならではの二人の絆の強さを感じて心が暖かくなる。付き合わないのだろうか。


「にっしても自分、よおあんな男と付き合うとるなあ」
「へ?」


そんなことを考えていたので、突然言われた言葉に目を見開く。ちょうど同じことを考えていた?白けた目の服部くんはわたしに向き直り、同じ調子で続ける。


「白馬や白馬。付き合うてんのとちゃうんか」
「えー!!」


思わず絶叫してしまう。途端に頬が熱くなる。そんなことを言われたのは初めてだ。「ち、違うよ!」しかしもちろん事実無根なので否定せざるを得ない。なあんや、とあっさり信じてくれた服部くんに苦笑いしながら、でもそう言われるのは嬉しいような恥ずかしいようなという不思議な気持ちで頷いた。……そっかあ、そう思う人もいるんだあ。今は親しい級友って関係だけど、いつかそうなれたらいいなとは、密かに思ってます、よ。
というか服部くん、白馬くんとあまり仲が良くないのだろうか?


「せやけど自分ら、前も今も一緒におるやん。今日なんて二人で来てんねやろ?」
「そ、そうだけど、主にわたしがついてきたかったからで…」
「ほおー…なるほどな、あいつのことすきなん」
「うん、内緒だよ」


小声で答えると彼は明後日の方向を見て、「ええけど、内緒なあ…」と半笑いで言った。意味深な発言とさっき気になったことを聞こうとしたのだが、ちょうど向こうの話も終わったらしく二人が戻ってきたので口は噤んだ。


「お待たせ、ごめんなあ」
「ほんまや。そんじゃ、夜までには一通り終わるやろから電話するわ」
「わかった。白馬くん、平次のことよろしくねー」
「ええ。お二人とも楽しんできてくださいね」


つまらなさそうな服部くんを一瞥し、白馬くんと目を合わせる。にこりと微笑む彼に笑い返し、「ちゃん行こ!」和葉ちゃんに手を引かれ駅の改札をくぐる。振り返ると白馬くんと服部くんが手を振って見送ってくれていたので、わたしたちも振り返しながら、まずはやっぱり清水寺やんなあ、と楽しそうな横顔の和葉ちゃんに頷く。白馬くんと何を話していたのか、そりゃーわたしも気になるけど、それはあとでもいいだろうと思った。


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