翌日さっそく紅子ちゃんに報告すると、彼女はどうしてだかわかってたみたいに息を吐いて、「そう。いいんじゃない?頑張りなさい」と言ってくれた。応援してくれたことがとっても嬉しかったわたしは、もちろん大きく頷いた。

 紅子ちゃんのときで何となく気付いていたけれど、わたしは多分、綺麗な人がすきなのだろう。よくよく考えると今までいいなあと思った男の子たちはみんなどちらかというと中性的な顔立ちをしてたと思う。小学生や中学生の頃のことだからどの人もぼんやりとしか覚えてないけれど。結局今まで誰一人として思いを伝えたことがないので、その感情たちは時間と共に流れていったのだった。

 白馬くんとはあれから、結構親しい間柄になれていると思う。彼は世間を騒がせている怪盗キッドを追いかけているらしく、随分前にはキッドに関することで徹夜でパソコンと向かい合っていたこともあったそうだ。怪盗キッドといえば青子ちゃんのお父さんも警部さんでキッドを追いかけているらしい。白馬くんから聞いただけだからよくは知らないけれど、世間は狭いなあと思うよね。白馬くんは高校生探偵だけどお父さんが警視庁の警視総監?なのもあってよく捜査で協力するらしいけれど、さすがは神出鬼没の大怪盗というべきか、なかなか捕まらないらしい。

 そんな話をしたのが遠い昔のようだ、とか言ってみる。実は白馬くんはここ最近、ずっと日本を留守にしているのだ。頬杖をつくわたしに隣の紅子ちゃんは上体だけを向けて問い掛けた。


「彼、まだロンドンにいるの?」
「うん。なんか大きな事件捜査してるらしいよー」


 そう、白馬くんは今ロンドンに行っているのだ。前もやり残した事件があると言って一度ロンドンに戻ったことがあったから、今回もそんな感じなんだろう。
 そんな多忙な白馬くんとはもっぱら電話でやりとりをしている。時差がものすごいのでなかなか思うようにはいかないけれど、海外生活の話を聞くのも楽しいからまるで苦ではない。どうやっても顔を合わせられない分、声が聞けるだけでも嬉しいのだ。それに、「でも近々帰ってくるらしいよ」夕べの電話でそう言っていた白馬くんを思い出す。


「あら、そうなの?」
「なんか晩餐会に呼ばれたとかで」
「晩餐会…?」
「すごいよねー」


 晩餐会とか、わたし人生で一度もお目にかかったことないよ。それどころかテレビや本の中でしか目にしたことない単語だ。白馬くんは休暇にパリに行っちゃうような人だから、やっぱり彼を取り巻く物事もわたしなんかには到底想像も及ばないのだろう。


「それじゃあ久しぶりに会えるのね」
「どうだろ、事件放り投げて戻ってくるみたいだからとんぼ返りなんじゃないかなあ」
「あら、そこまでして。随分と大事な食事会なのね」
「ね。でもなんか差出人の名前が、なんだっけ……こどもの幻?が、神さまに捨てられちゃったみたいな……」
「? なにそ、――!」
「ん?」


 バッと後ろを振り向いた紅子ちゃんにつられてそちらを見てみるけれど、昼休みの今はぐーすかと爆睡している黒羽くんしかいなかった。「どうしたの?」彼女に問い掛けてみても、「なんでもないわ、ホホホ…」と誤魔化されてしまった。


「と、とにかく。会えるといいわね、白馬くんに」
「うん!楽しみだなあー」


 正面に座り直し、彼に会うのを想像して無意識に口角が上がる。
 白馬くんが留守にしている間も、街を歩いているとときどき見かける警察の中に彼がいないか探すクセがついてしまった。その度ハッとしては寂しい気持ちになるのを何度経験しただろうか。会えたらとても嬉しいと思う。学校には来るのかなと思いを馳せながら、彼が帰って来るのを心待ちにしていた。

「心配するまでもなく上手くいってるみたいね」人知れず、呆れたように紅子ちゃんが呟いたのは耳に届かなかった。


6│top