どうやら誤解を与えてしまったらしい。慌てて一から経緯を話すと無事蘭ちゃんにホッとしてもらえたようだった。なんでも工藤新一くんというのは蘭ちゃんの幼なじみで、ずっと前から色々な事件に掛かりきりでロクに顔が見れないどころか連絡もまちまちなのだそうだ。今回もディレクターさん曰く連絡がつかず参加するかどうか不明だったらしい。それは紛らわしいこと言った。肩をすくめて謝ると助手席の蘭ちゃんが振り返り、ううんと首を振る。今は毛利さんの車に乗って例のホテルに向かっている最中だ。


「でも白馬くんかあ。ちょっと懐かしいなあ」
「白馬っつーと、もしかして警視総監の…」
「あ、そうです、白馬くんのお父さんは警視総監です」


 頷くと、顔を正面に向けたままの毛利さんはほおーと相槌を打った。なんでも蘭ちゃんは前に事件で居合わせたことがあるらしく、そこではなんと怪盗キッドが毛利さんに変装していたらしい。なので毛利さんは白馬くんとの面識がないのだそうだ。「そんならその白馬くん、平次と似てんねんな!」隣の和葉ちゃんのきらきらした声に向き直る。確かにそうだね、と蘭ちゃんも乗っかるけれど、残念なことにわたしには高校生探偵という共通点以外見当もつかなかった。


「平次のお父さん、大阪府警の本部長やねん!」
「本部長ってことは…」
「大阪の警察で一番偉い人だよ」
「そうなんだ!えっと…そのヘイジさんが西の代表なんだよね?」


 和葉ちゃんは大きく頷き、服部平次くんという高校生探偵について色々話してくれた。彼女の幼なじみらしい彼と蘭ちゃんの幼なじみである工藤新一くんはなんでも、西の服部・東の工藤と呼ばれるくらいには有名な探偵らしく、新聞や雑誌で取り上げられたことが何度もあるのだそうだ。白馬くんと知り合うまでそういったことにてんで疎かったわたしはもちろん知っているはずもなく、嬉々として話す和葉ちゃんに申し訳なさを感じながらしっかりと聞いていた。



◇◇



「そのような方の御予約は承っておりませんが…」
「え?」


 毛利さんの素っ頓狂な声があがる。波華館というホテルに着いたわたしたちはさっそくフロントでチェックインを済ませようとしたのだが、そこで予想外の事態が起こったようだった。なんと、テレビ局からの予約は入ってないというのだ。しかし予想していなかったのはお互い様らしく、受付をしているメガネの男の人も当惑した様子で眉尻を下げている。彼の後ろでは女性の従業員が予約リストらしきファイルを何度もチェックしていた。


「お、おい、ちゃんと調べてくれよ!夕食と朝食付きのはずだぞ!」
「し、しかし本当に…」


「ちょっと、なになに?」「どうなってるの?」和葉ちゃんと蘭ちゃんも不安げな様子だ。直接は関係ないとはいえ、無関係でもないわたしも言いようのない不安に駆られながら、フロント係の従業員と毛利さんの応酬を見守っていた。


 しかし結局日売テレビの予約は確認できず、無人島へ行ってしまったディレクターさんとも連絡が取れないわたしたちは一旦ホテルの外へ出た。手配ミスなんじゃないかとうっすら思っていたのはわたしだけだったのか、毛利さんは知り合いだという日売テレビ専属アイドルの沖野ヨーコさんに連絡を試みたようだった。これで問題が解決すればいいんだけれど。思いながらうかがっていると、「ええっ?!そんな企画はない?!」再び毛利さんの驚きの声が上がったのだった。しかし今回ばかりはわたしも驚かざるを得ない。企画自体がない?どういうことだ。「…あ、ああ、日売テレビのスタッフジャンパー着てたし…名前は確か槌尾広生…」


「えっ?!日売テレビにそんな名前のディレクターはいない?!」
「ちょ、ちょっと…じゃあ、服部くんやコナンくんたち連れて行っちゃったのって…」
「誰なん?!」


「そんな…」思わず零れた声が震えていた。何かよくないものに白馬くんたちが巻き込まれていることくらいはわたしにもわかる。外はもう日が暮れている。やがて暗くなるだろう。毛利さんの、とにかく港に戻るぞとの声になんとか頷き、おぼつかない足取りで再び車に乗り込んだのだった。


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