隣の席の小泉紅子ちゃんはとっても美人な女の子だ。腕も足も細い華奢な身体にさらりとなびく赤みがかかった長い髪は見る者を惹きつけ、例に漏れず転入生の彼女に半ば一目惚れのような気持ちになったわたしはなんとしてでもお友達になろうと初日から頑張った。紅子ちゃんは見た目が美人なだけじゃなく物腰も優美な人だから学校中の男子にもてもてで、気を抜くとすぐに彼らによるバリケードができてしまうため近づくのはなかなかに困難だった。
 そんな中、席がお隣になったのは奇跡だっただろう。わたしは彼女に積極的に話し掛け、その努力が実り今じゃ紅子ちゃんと一番の友達なのだ!
 自慢げに横顔を覗き込むと、視線に気付いたのか紅子ちゃんと目が合った。


「何かしら?」
「ううん!今日も綺麗だね紅子ちゃん!」
「あら、ありがとう」


 ホホ…と手を口の前に持ってきて笑う仕草も彼女ならではだ。きっと紅子ちゃん以外の人がやっても似合わないよ。同じ高校生のはずなのにどうしてこうも大人っぽくて、上品なんだろう。憧れるなあ。
 ホームルームの鐘が鳴り、クラスメイトがガタガタと席に着く。すぐに先生が入ってきたのでそちらに顔を向けると、見慣れない男の子が続いて入って来ていて、先生の隣で立ち止まった。


「はーい皆さん、新しい友達ですよー」


 紅子ちゃんが来たときと同じパターンだからすぐにわかった。転入生だ!おお〜と内心わくわくしながら背筋をピンと伸ばす。「6月4日、午前9時01分32.41秒。ロンドンブリッジハイスクールから転校してきました。白馬探です。よろしく」茶髪の彼は毅然とした態度でそう自己紹介し、それから不敵な笑みを浮かべた。まじまじと見て気付いたけれど、ハクバ?くん、とっても綺麗な顔してるなあ。周りの女の子たちも目がハートだ。


「すごくかっこいいね、ハクバ?くん」
「……ええ、そうね」


 小さな声で紅子ちゃんに言うと彼女は肯定の返事をしてくれたけれど、表情はどこかかげっていた。どうしたんだろう、ハクバくんが何かしたのだろうか。じっと見ていると紅子ちゃんはハッとして後ろを向き、それからハクバくんと同じように不敵に笑った。その視線の先を追うと、紅子ちゃんの後ろの席の黒羽くんが、目をまん丸にして口を引きつらせていた。


「大変ねえ敵が増えて。でもあなたを倒すのは私。忘れないでね」


 敵?無意識に首を傾げると同じことを黒羽くんと隣の青子ちゃんも思ったらしく疑問を口にしていたけれど、黒羽くんはどもりながらも何でもねえよとしか答えてくれなかった。なんだろうと思いつつ、紅子ちゃんが楽しそうに笑っていたのでまあいっかと納得して聞くことはしなかった。気付いたときにはハクバくんの席は、窓側から三列目の一番後ろに決まっていた。


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