お風呂にどのくらい入っていたかも夜ご飯何を食べたかも思い出すのに時間が掛かった。もっと言ってしまえばあれから帰った記憶も曖昧なのだがこうして朝学校に来ているところを見るとわたしは一昨日と同じような生活をやり過ごしたのだろう。そして挨拶を交わした友達に何かあったのと聞かれてしまう分には一昨日と同じような生活をやり過ごせてはいないようだった。大抵のことは寝ればリセットされるのにこればかりはそうはいかないらしい。
わたしは不動くんと友達になれなかったことに酷く落ち込んでいるのだ。そのことを話せば友達は変な顔をした。顔をしかめたと言ってもいい。


「あんたそんくらいで…」
「そんくらい…」
「元気出せ!」
「…うん」
「なんで?よかったじゃん。見た人いたらしいけど、あんた不動くんにどつかれたんでしょ?」
「すぐ後ろに壁あった」
「あ、そう」


この子が聞いてきたのは友達の目撃証言があったからか。じゃあわたしは見た目はそんなに落ち込んでないのかな、さっきからびしびし感じる佐久間くんの視線も同じような理由なのだろうか。不動くんが話すことはないと思うし。なんていうか、今のわたしって不動くんに声を掛けなかった頃より嫌われてる自信が沸いてる。あの頃は認識されてもいなかったけど。

ちょっとわたし、何が駄目だったのかよくわからない。不動くんとは友達になれない運命だったのだろうか。たった三日という友達期間、いや向こうは友達とすら思っていなかったんだからやはり彼とは縁がなかったということなのだろうか。あの校門でのやりとりを思い出すとお腹が痛くなるから思い出したくないけどつい考えてしまう。可哀相だと思ったのはただのきっかけなんだわたし最初こそそうだったけどすぐそんなんじゃないと思ったんだ不動くんと友達になりたかったのは不動くんをもっと知りたかったからなんだ。…そうなのにそれを言わなかったのが、いけなかったのかなあ。結果、不動くんは怒ってしまった。








昼休みになって佐久間くんに声を掛けられた。今日の午前中休み時間ごとに佐久間くんからの視線を感じていたので、いきなり名前を呼ばれても特に驚きはしなかった。「不動と何かあったのか?」わざわざそこを聞いてくるということはもしかしたら佐久間くんは何も知らなくてわたしの尋常じゃない落ち込みっぷりに気付いただけかもしれない。やっぱり今日のわたしは普段のわたしでいられてないようだ。ざわめく教室の一角で椅子に座りぼろぼろと口から脈絡のない経緯を零すとそれを丁寧に繋いで理解したのだろう佐久間くんは聞き終えたあとそうだったのかと呟いた。「不動くん何か言ってた?」「いや、言ってはいなかったな」やっぱりね、だよね。不動くんにとってわたしなんてそんなものだよね。 更に肩を落とすと目に見えて佐久間くんが困った。あーとか言って言葉を模索している。


「…不動はわかりづらい奴なんだよ。本当のこと言ってくれないから」
「…そうなの?」
「ああ。俺も勘違いしてた。あいつはもっと最低な人間かと思ってたけど、その点おまえは誤解してなさそうだな」
「うん。不動くんはいい人だよね」
「…まあ、そういうことでいいよ」
「?」
「全面いい奴とは言い難いな」
「そう?」
「ああ」


最初佐久間くんは慰めてくれてるか不動くんのフォローをしてるのかと思ったけど違うようだ。なんかただ話を聞いて今まで知り得た彼の不動くん像を話してるみたい。だって慰めるにしてもフォローするにしても不動くんの扱いが雑だ。佐久間くん本当は不動くんすきじゃないんじゃないかと不安になるくらい不動くんに対するイメージがよくない。仲間なら手放しで褒めたりしないのか。団体スポーツしないからわからないなあ。
もっと言えばわたしは友達との距離感が上手く掴めていないのだろう。そうじゃなかったら不動くんとあんなことにはならなかったと思う。反省点は自分にあるのだ。


「でもわたし不動くんと友達になりたいよ」


そうだいくら不動くんに拒絶されてもわたしは不動くんの友達になりたいと思う。今でもその芯は折れていない。


「そっか。頑張れよ」
「うん…」


でも何を頑張ればいいかわからないんだよ。

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