その日は結局あれから一度もしゃべれなかった。ドッジボールのときも言ったとおりわたしは逃げ回るのに必死だったし不動くんは体育会系なだけあって避けるのも投げるのも上手くてあんまり前に出ることはなかったけど最後の方まで残ってた。敵チームだった源田くん目掛けて思いっ切り投げつけてたときわたしはすでに外野にいたのでほぼ真正面の不動くんが見えたのだがそのときの彼はとても生き生きしていた。ハンターの目だった。
という話もしたかったのに放課後若干逃げるように部活に行ってしまって声を掛けることさえできなかったのである。今日も挨拶しようとしたのに気付くと自分の席に着いていた不動くんに驚いた。なので、これは…と思い自分から話し掛けることはしなかった。

放課後、今日は休みらしくゆっくり教室を出た不動くんにやっぱり昨日のは避けられたんじゃなくて部活に急いでただけかあとほっと胸を撫で下ろしていると彼の姿が忽然と消えてしまったことに気付いて慌てて教室を飛び出した。そして校門を出たところにその姿を見つけて、また前みたく何も考えずに声を掛けたのだった。


「不動くん!」


すると歩きながら振り返った不動くんがものすごく顔をしかめた。あ、と思う前に立ち止まられて、わたしは不動くんと一メートルあけたところに立ち止まった。


「またおまえか…」
「言うほど話し掛けてないじゃん」
「話し掛けんなっつったろ」
「友達に話し掛けちゃいけないなんてことないもの」


一昨日不動くんを待った校門前で、わたしは不動くんの隣に並ぶため駆け寄った。すぐ後ろに学校を囲う塀がある。不動くんは目を伏せて斜め下を見た。口には露骨に嘲笑の笑みを浮かべている。


「友達ねえ…俺友達になった覚えねえよ」
「え?!」
「えじゃねえよ。当たり前だろ」
「なったと思ってた…」
「ハッ。…どーせおまえ、家が隣で、俺が一人でいるから可哀相とか思ってんだろ」
「? うん、そうかもしれない」


瞬時に思い出した不動くんの第二印象辺りは確かに彼が今発した台詞と割と一致してると思ったので、頷いた。すると彼は目つきをぎゅっと悪くしわたしを睨んだ。


「うぜえんだよそういうの。俺は一人が嫌とか友達欲しいとか思ってねえよ。構うな」
「……」
「フン。友達だと思ってたんだっけ?」
「うん」


顔を覗き込んでくる不動くんは馬鹿な子供を諭すかのような口調で表情も緩んだと思った。けれどわたしが頷くと、彼は鋭い目つきを一層鋭くさせて、それに気を取られたわたしは次の瞬間ガッと肩を塀に押し付けられた。勢いはあったけど塀との距離はそんなになかったので想像したほど痛くはなかった。じんわりとだけ、痛みが広がる。わたしと不動くんは手の長さしか離れていない。こんなに近いのに彼の心情は何もわからないのだ。「なあ」凄まれるがわたしは全ての事象に五秒遅れでついて行ってる気がして彼を怖いとは思わなかった。


「じゃあ絶交だ。二度と話し掛けんな」


そう、吐き捨てて去っていく不動くんを、追い掛けることはできなかった。


(……三日…)


三日で友達が終わってしまったのだろうか。やっと整理できてきた思考回路で考えることはそのくらいだった。

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