しかし思ったのだが不動くんて完全にぼっちではないよなあ。この一週間観察し続けていたけどあれだ、佐久間くんと源田くんとはしゃべってるのを見た。その二人とだけ。だからサッカー部でも浮いてるんだなあと思ってたのだけどもだから完全なるぼっちではないんだよ大事なことなので二回言いました!あの二人とはしゃべってる!その経緯はきっと引っ越してきた不動くんにわたしと同じような感情を持った佐久間くんと源田くんが話し掛けた結果そこ三人だけで仲良くなったのだと思う。つまりロンリーウルフ不動くんが二人を認めたのだろう。つまりわたしも頑張ればていうかおまえ誰?とかシカトかつ舌打ちとかいう酷い仕打ちを受けずに円満に仲良くなれるのだろう。不動くんは一人にならないしわたしは友達が一人増えるしいいことだらけである。これぞ利害の一致。あ、不動くんは二人と仲がいいと言ったけど、言い切れるほど彼は二人と一緒にいないのだ。さっきも言ったけどたまにしゃべるのを見るくらいだ。だからわたしが不動くんと一緒にいよう!という意気込みである。
昨日友達になれたとは言え多分話す機会もない、からわたしから行かなきゃただの「ゆうめいむじつ」として終わってしまうと思うのだ。それではわたしの気は収まらないしていうか不動くんと仲良くなりたいので休み時間の度に無駄に不動くんの席に行くという行動に移した二時間目数学の前の休み時間である。


「不動くん不動くん、五時間目の体育楽しみだね!」
「…あ?」
「ドッジ!先生いなくて自由だからクラスのみんなでやろうって朝決まったじゃん」
「へー」
「わたし運動苦手だけどドッジは強いよ!逃げる専門だけど」
「へー」
「体育会系の部活の人ってみんな投げるの強いよねー」
「へー」
「ときどきボール転がって拾っちゃうけどあれ困るんだよ外野に渡すしかないよ」
「へー」
「でも男女でドッジってどうなんだろう男子やりにくくないのかなー女子も死ぬ気で逃げなきゃ怖いし」
「へー」
「あ、出席番号でチーム分けって言ってたよ。不動くん偶数だからわたしと一緒だよね!」
「なんで俺の番号知ってんだよきめえな」
「友達じゃない!」
「……!」


あれものすごく目見開いた。モヒカンが逆立つんじゃないかってくらい驚いてる。なんだなんだ、そんなに嬉しかったか!


「…鳥肌たった」
「ええー…」
「てめえ話し掛けんな。うざい」
「え」

「…不動、おまえと何してんだ」
「佐久間くん」
「何もしてねえよ。何か用?」
「ああ、来週の日曜に雷門と練習試合が入ったってことを言いに来ただけだ」
「へえ」


佐久間くんと不動くんを交互に見るとぱちりと佐久間くんと目が合った。するとすぐに不動くんが席を立ったので視線はそちらに注がれた。どこ行くんだろうとそのまま疑問に口に出す前に佐久間くんが「授業始まるぞ」と言ったので結果的にわたしは黙ってた。あとで気付いたけどこのときわたしは不動くんに話し掛けるなと言われたばっかだったから結果オーライだったようだ。その不動くんはすぐ戻って来るとだけ言って教室を出て行った。トイレか何かだろう。もしかして不動くんは休み時間始まった瞬間飛んできたわたしの応対をする羽目になって行きたかったトイレを我慢してたんじゃないだろうか。悪いことしたなあ、そんでもって不動くんていい人だなあ。
と、ここでややしつこい佐久間くんの視線に気付いた。


、不動の知り合いなのか?」
「え、なんで」
「さっき話してただろ」
「友達になったから」
「は?」


佐久間くんの目って大きな大きいなと思ってたのだけどこのときの目が一番大きいなあと思った。あと本人に言ったことないけど佐久間くんてすごく可愛い顔してるよなあ。生きてく上ですごく得すると思うんだよねあらゆる意味で。需要で溢れ返るよね。
ところで何だっけ?「……友達?」ああそうだ、「うん」


「意外だな…」
「佐久間くんも不動くんの友達じゃん」
「いや友達っていうか…仲間だろ。部活の」
「おー素晴らしいね!」
「そ、そうか。ようやくって感じなんだがな。前にいろいろあったんだ」


いろいろ?首を傾げる前に佐久間くんが「あいつが転入して来る前から俺と源田だけ不動に会っててな」と答えてくれたけどあんまり疑問の解決になってない。でも知りたかった不動くんと佐久間くんと源田くんだけが仲良くなった経緯がわかったのでよしとしよう。


「そうなんだーだから佐久間くんと源田くんだけ仲いいんだね」
「…よく見てるな」
「観察してたので」
「不動を?」
「そう」
「なんで?」
「家お隣さんだから」
「あ、そうなのか」
「うん。あ、納得した?」
「おお。だってみたいな奴が不動と友達になろうなんて思わないだろうから」
「そうだよね。でも不動くん第一印象より全然いい人だよね」


すると佐久間くんはちょっと呆気にとられたような顔をしてそれからふっと笑った。わあ綺麗なお顔。


「俺、割とは普通の奴だと思ってたな」
「何それ普通だよ」
「普通ではないな。変だ」
「佐久間くんに言われたくない」
「どういう意味だ」
「どうでしょう」


水色の髪の毛と髪型と眼帯の意味だよ。でも言わないでおく。水色の髪の毛はたぶん生れつきだし髪の毛は綺麗にいつもまとまっててわたしが馬鹿にできるものじゃないし眼帯は本気で佐久間くんのアイデンティティだと思ってるから無くなったら逆に困る。だからずっと気になってた佐久間くんの突っ込み所も触れないでいる。そういえば佐久間くんて今サッカー部のキャプテンなんだっけ?源田くんの方だったかな。佐久間くんは不服な顔をして右手を腰に当てている。「あ」振り返ると不動くんが嫌そうな顔してそこにいた。帰ってきたようだ。


「邪魔」
「あ、ごめん」
「…不動」
「何だよ。おまえらいつまでも人の席でしゃべってんじゃねえよ」
「ああ、すまん。もう始まるしな」
「佐久間くん出席番号何番?」
「ドッジボールか?」
「そうそう」
「24番」
「あ、同じだ」
「あ、そう」
「不動くんもね」
「…話し掛けんなっつったろ」
「え、ごめん」
「…不動、言い方ってもんがあるだろ」
「うっせーよ。佐久間には関係ねえだろ」
「はあ?」
「先生だ。佐久間くん戻ろう」
「あ、おお」


二人の仲がこじれそうな気がしてタイミングよく先生が入ってきたから席に戻った。…なんか、不動くんが佐久間くん挑発した、のかな。初めて見たけどよくやってんのかな。喧嘩に発展しそうな雰囲気ではなかったけど。

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