中学生の頃、不動くんの奇抜な見た目と鋭い目つきのせいで彼と距離を取っていたクラスメイトたちとの溝は、三年生になる頃には気にならなくなっていた。その理由は時間によるものでもあったけれど、事あるごとに不動くんの話を持ち出すわたしの功績でもあったのだ。「のおかげで不動の印象が良くなってったんだろうな」佐久間くんからしみじみそう言われたときわたしはとっても嬉しくて、ありがとうと声を上げたものだ。そんなこともあってクラスの女の子たちは卒業する頃には不動くんと普通に話すようになっていた、けれど、それを見てもこんな気持ちにはならなかった。
どきどきと心臓が気持ち悪い脈を打ったまま、友達と小道具作りの作業をする。けれどどうにももやもやしたままなので、ひと段落したところで最近仲良くなった気さくな友達に聞いてみることにした。


「ねえねえ、あのさ、わたし親友がいるんだけどね、」
「うん?」
「その子が女の子と仲良くしてるの見たらもやもやするんだけど、どうすればいいのかな」
「あー、わかる!もやもやしちゃうよね」
「だ、だよね?!」


共感が得られた喜びのあまり身を乗り出すと、友達はうんうんと二回頷いて、「わたしも中学まで一緒でずっと仲良しだった友達がいてね、その子が他の子と仲良くしてるとんんんーってなったよー」と経験談を語ってくれた。それに今度はわたしがうんうんと二回頷く。わたしの今の状況はまさにそれと同じだったのだ。


「親友なんでしょ?」
「うん!」
「じゃあそうなっちゃうの仕方ないよー、一番の友達なんだもんね。なんか、独占したくなるよね」
「どくせん…」


「ちょっと恥ずかしいよね、わかってるんだけど」照れ笑いする友達に、わたしはまん丸にした目を潤ませていたんじゃないかと思う。もやもやの正体がわかって感動したのだ。作業が再開されてからもその感動は続いていて、解散するまでずっと地に足がついていない気分だった。

急いで昇降口を出るとすぐ近くの壁に寄り掛かり携帯をいじっている不動くんを見つけた。片付けが予定より時間が掛かってしまったのでもしかしたら先に帰ってしまったかもと思っていたけれど、彼は約束通り待っててくれたらしい。それが嬉しくて駆け寄る。不動くんが顔を上げたところでピタッと立ち止まり、大きな声をあげた。


「不動くん!」
「あ?」
「あのね!わたし不動くんが女の子としゃべってるの見るともやもやする!」
「…はあ?」


早く伝えたかったのだ。わたしが思ってることを不動くんに知ってほしかった。


「わたし、不動くんを独占したい!」
「は、おま、」


わたしは今日初めて、独占欲というものを自分の中に見つけたのだ。不動くんと一緒にいたいと思うのも女の子と話してるともやもやするのも不動くんを独占したいと思っていたからだ。そして、そう思う理由もちゃんとわかっている。


「親友だから!」


「………」途端、不動くんの表情が驚きから呆れ顔へと変化した。あれ、どうしたんだろう。わたしの勢いはそこからしゅるしゅるとしぼんでいき、三メートルほど空いた彼との距離が急に居た堪れなく感じた。埋めようにも今近づくのは気恥ずかしく、うかがうように不動くんを見ると彼は深い溜め息をついた。携帯をポケットにしまい、壁から背を離して片足重心になる。顔を上げた不動くんは目を細めていて、想像とは違ってどうしてだか挑戦的な笑みを浮かべていた。


「じゃあ聞くけど、おまえは俺に独占されていいのかよ?」
「いいよ?」
「…あっそう」


今度は白けた表情になる。今日の不動くんは表情がよく変わるなあ。それしてもそのリアクションは何だろう。即答したのが駄目だったのだろうか。でも間違えた気はしないし、もし不動くんがわたしを独占したいと思ってるのなら、それはつまり不動くんもわたしを親友だと思ってる由縁なのだから、嬉しいことなんじゃないか。いや、とっても嬉しいことだ!


「え!不動くん!」
「嘘だよ。しねーよおまえなんか」


もういいから帰んぞ。そう言って話を切り上げた不動くんは、両手をポケットにしまい校門へと歩きだした。なんだあ。少し納得いかないけれど、心に渦巻いていたもやもやはもう綺麗さっぱり消えていたので、わたしはそれ以上言わず彼のあとを追ったのだった。

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