まさか名前を覚えられていなかったのには驚いた。お隣さんってことも言われて初めて気付いたみたいだった。この気持ちはなん〜だろ〜。ショックである。一匹狼は狼でももう少し周りに関心があるのかと思いきやそうでもなかったらしい。いや不動くんにとっての周りの範疇にすらわたしが入っていなかっただけかもしれないけれど。さすがにその真相を聞いて落ち込みたくないのであえて触れず、とりあえずその日は名前とお隣さんということだけ伝えて逃げるように帰った。お風呂に入ってるとき気付いたけどわたしお友達になろうと言ったあと明確な返事聞いてない。わたしは小学校の頃クラス替えした日女の子に言われたことがあってそのとき喜び勇んで(もちろん喜び勇むなんて言葉は当時知らなかった)うん!と頷いたのだけどもしかしてお友達になろうって言葉に返事は必須でないのだろうか。あの「ていうかおまえ誰?」は決してはぐらかされたとかではない、と信じたい。
だって普通、お友達になろうって言われたら嬉しいものだよね。怪しい人に言われたわけじゃあるまいし、……部活終わるの待ち伏せてる女は怪しいかもしれない…でも一応本来お隣さんの同い年の女の子だし!素性わかれば不動くんも納得してくれたはずだ。結局空回りした感が半端なくて恥ずかしくなって逃げてきてしまったのだけど、もう友達だものね。これで不動くんは一人ぼっちじゃなくなるものね。


それに不動くんモヒカンだけど思った通り悪い人じゃなかった。そんなしゃべれてないけど。(もっと関わりたいなあ)





「おはよう不動くん!」


そんなこんなで朝友達としゃべっているところに不動くんが教室に入ってきたわけで丁度ベストポジションにいたわたしは元気よく挨拶した次第である。挨拶って基本中の基本だし大切だと思うのだ。おろそかにしてはいけないのだよ。
しかし今一瞬クラス静まり返った気がしたけど何事?よく男子が言う「シラけた〜」的な空気だったのに誰もそのシラけた〜を言わず元の空気に戻ったから不思議である。


「……チッ」
「え」


不動くんは何も言わず舌打ちだけしてわたしの横を通りすぎた。…挨拶は、基本中の基本なんですけど。怒っていいのか悲しめばいいのかわからず呆然と不動くんの動向を目で追っていた。友達の挨拶シカトってどういう了見ですかオイ。説明してください百文字以内で説明しやがれこのやろう!!
と掴み掛かりたかったけど、なったばかりの友達にそんなこと言うのはアレだと思ったのとさっきまで話してた女友達がわたしの肩を掴んで揺さ振ってきてまじ気持ち悪くなったのでその物騒な思考回路はそこで途切れた。


「あんた何不動くんに挨拶してんの?!」
「え、ちょ、ギブ…」
「質問に答えんか!」
「(おええ頭ぐらぐらする…)あの、昨日、友達になったんです…」
「はあ?!なんで?!」
「家お隣さんだし…不動くんいつも一人だったし」
「あんたああいうヤンキーと関わるキャラじゃないじゃん。脅されたの?」
「なんでよ。友達になるのに理由がいるんか!」


この台詞は割と決まった!と思ったのに友達は真顔で「いる」と答えたので「あ、そうなんだ」と返してしまった。しかし理由といっても先程言ったのが全てなのでどうしようもないのだが。


「てか友達とか言ってシカトされてたじゃん」
「舌打ちしてたよね」
「怖いわーモヒカン怖いわーあんたみたいのが近づいて無事でいられる気がしない」
「ドラマ見すぎだって」


とか言ったわたしも実際お隣さんの同い年という偶然に何か期待していたわけだから何というか、人に偉そうなこと言えないなあと思う。遠くの席に座っている不動くんを見てみてもやっぱり一人ぼっちだった。わたしがこれからめっちゃ話しかけてやんよ!

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