前にも言ったけど同級生のほとんどはこのまま高等部へ進学するので、彼らには感慨というものはあまりないようだった。卒業式後、外部進学のわたしが一人で泣いて、友達が数人貰い泣きで涙ぐんでくれただけで、他の人たちは談話や記念の写真撮影に勤しんでセンチメンタルのセの字も見受けられなかった。外部という選択肢を選ぶのは帝国ではそんなにマイナーなのか、うちのクラスではわたしと不動くんと佐久間くんと源田くんしかいなかった。その三人は今、隣のクラスでサッカー部全員と写真を撮っているらしい。

先生の話も終わり自由解散となった。花束や記念品で多くなった荷物を机に置き、少しずつ帰っていくクラスメイトを横目に窓の外を見た。夕焼けとかだったら雰囲気出るのになあ、まだ日中だから全然悲しくならないよ。

わたしには開けた希望があって、歩む道があるのだ。そう、不動くんが近くにいる。

帰らずにこうしているのは何も感傷に浸りたいわけではなく、ただ単に不動くんを待っているだけなのだが、いざ彼が帰ってきたと思ったら佐久間くんと源田くんだけでなく辺見くんもいた。彼は今まで集まっていただろうクラスとは反対のわたしたちの隣のクラスで、不動くん繋がりで何回か話したことがあった。


「帰ってなかったのかよ」
「うん…」
「俺ら帰んねえから」
「あ、そうなんだ」
「雷門の卒業試合見に行くんだよ」
「へー…」


どうも帰る雰囲気じゃないなあと思ったらそういうことらしい。佐久間くんが窓の外を見て「もうバス来てるぞ」と言っていたので間違いなく部単位で行くのだろう。正直一緒に帰れないのはがっかりだけれど、欲張りはいけないなあとすぐに気を持ち直した。三人が自分の席で荷物の整理に取り掛かっている中辺見くん一人はすでに支度は整っているらしく、小さめの花束を片手に頭の後ろで手を組んだ。


も来ればよくね?」
「え」
「用事ねえだろ?」
「あ、やー…いいよ。雷門って…雷門だよね。いいよ」
「そーか?」


雷門といえば、サッカー部の最後の大会の決勝で戦った学校だ。べつに、だからといって何があるわけでもないし、鬼道くんがいることもあってかその学校との関係は深いらしいので問題はないのだけれど、ただ単に雷門の卒業試合を見ることに特に惹かれなかったのだ。サッカー部の行事なのに部外者のわたしが首を突っ込むことにも気が引けた。


「誘ってくれてありがとう」
「いーや。不動と一緒にいたいんじゃねーのかと思っただけだし。最後の下校じゃん」
「んん、あと三年あるから大丈夫」
「は?あ、そーか」
「…おい辺見」
「わりー不動。変な気遣っちまった」
「黙れ馬鹿。早く行くぞ」
「へいへーい」


辺見くんの気遣いは有難かった。折角なので昇降口まで五人で向かい、四人に手を振って別れた。春休みは会えるだろうか。

18 top