「…あった」


自分の受験番号を人だかりの向こうの掲示板に見つけた瞬間、自分でも驚くほどほっとした。緊張してたとか、らしくねえな。自嘲の笑みを一人漏らしてすぐに自分の下の番号を確認するとそれは四つ飛ばした番号で、ああやっぱりな、と思うと同時に他人事なのに落胆する自分がいた。ついでに一つ上を見るとそれは俺との連番で、こっちは納得しかしなかった。


「合格おめでとう、不動」
「おまえもな」


隣にいた源田も自分の番号を見つけたのだろう。ふっと安心したように笑った。それからまた掲示板を見て、「俺たちだけだったな」と呟いた。俺はそれに予想通りだろと返す。俺の下のの番号も、源田の上の佐久間のそれも掲示板にはなかった。
今日は二回挑戦ができる公立入試の一回目の合格発表日だった。一回目は二回目に比べて問題が難しく、合格者数も少ない。模試の時点で厳しい現実を突き付けられていた佐久間とは案の定不合格だったというわけだ。帝国の他の誰が受けているか知らないが、同時に出願した俺ら四人は受験番号が連番だ。本人に聞かなくても合否はわかってしまう。ちなみに二人は朝から学校の教師に数学を教えてもらいに行っていて不在だ。奴らの予想は自分らは駄目で俺と源田は受かっているとのもので、それは見事正解だった。こんなくだらないこと当てるくらいなら本番で正解一つでも増やせよな、と思うが今それを言ってしまうのはさすがに不謹慎か。試験が終わったあとのあの二人の消沈ぶりは傑作だったと言える。
これで俺も落ちてたら大分痛かったが無事受かっていて、そういう意味でも安心していた。源田の心配は多分本人しかしてなかっただろう。おまえが落ちてたらみんな落ちてんだよ。


「もう少し人が少なくなったら写真撮れそうだな」
「ああ」


証拠があった方がいいと源田が言い掲示板の周りの人だかりに目をやる。散り散りになっていく同い年の連中を眺めながら、もうすぐだろと思い携帯を取り出した。


「ついでにおまえのどや顔も一緒に送ってやるよ。隣並べ」
「それは酷だろ…」
「いいだろべつに。代わりに合格発表見て来いっつってるくらいだし」
「はは…。あ、不動、あれ…」
「あ?」


なんだよ急に。肩を叩いてきた源田の視線の先を追うとそこにいたのは。





不動くんと源田くんから二人の合格とわたしたちの不合格の通知を貰った丁度そのとき、わたしと佐久間くんは学校の教室で公立校共通の過去問を解くことに勤しんでいた。一区切りついたところで同時にメールを開け、同時に落胆し、同時に持ち直した。落ちることはもう予想の範囲内だし、むしろ不動くんと源田くんが受かったというそのことを祝福したい気持ちだった。自己採点の時点でわたしよりよかった佐久間くんもすぐ次に向けての勉強を始めたので負けてられない。と不動くんにお礼と祝福の文章を送り携帯を閉じた。


「あ゛ーーー!!!」
「えっ」


何事。佐久間くんが携帯片手に突如絶叫したのだ。彼は源田くんからメールを送られたはずだけれど、それに何かあったのだろうか。顔を伏せてものすごく悔しそうだ。「そうだった…」とか「失念してた…」とかぼそぼそ聞こえるけど要領を得ない。先程切り替えようと言ったのは佐久間くんだったのにまるで切り替えられてないようだ。


「どうしたの?」
「いや…、帝南絶対受かろうな」
「う、うん…?」


どうやら俄然やる気を出した様子である。よくわからないがいいことなので突っ込まないことにする。あまりに望みがなくて合格発表を見に行きたくなかった佐久間くんも、彼に連れられて朝から学校で過去問を解くわたしも、帝南から志望校を変えるつもりは毛頭なかった。

16 top