不動くんのいる初めての夏休みは勉強で終わった。わたしはほとんど塾で勉強をしていたし、不動くんとはたまに講座の日程が被って一緒に帰るくらいで特別何かイベントがあったってこともなかった。きっと会おうと思えば会えたのだけど、夏休みの真ん中にあった定例試験とやらでとても残念な結果を叩き出してしまったわたしはこりゃまずいと勉強に精を出したのだ。このままじゃ、本当に不動くんと同じ高校行けない。母には帝国でもいいと言われたけれど、外出るんならなるべく高いところに行けとも言われた。だから帝南だった。
それが元々の動機だったのだけど、不動くんがいるならもうそれ以外の選択肢はなかった。一緒の高校に行きたい。……けど。


「おまえ成績返ってきた?」
「う、うん」


不動くんが言っているのは夏休み末の定例試験のことだ。この前のは塾の帰りに見せてもらって、毎回見せてと頼んでいたのだ。九月に入って既に二週間経っていて、不動くんの久しぶりの制服姿もようやく見慣れてきた。来月から冬服に移行だから、この夏服を着るのもあと一ヶ月で終わりなのだ。昨日塾で返された成績表を差し出すと、交換で渡され、不動くんのを受け取った。


「悪いからね」
「知ってる。…ま、こんなもんじゃね」
「クラス上がれないよね…」
「そりゃな。次でいいじゃん」
「早く上がらないと。置いてかれる」
「誰に?」
「不動くんに」
「あっそ。焦ってんじゃねーよ」


わたしの成績表でパサッと頭を叩かれ、全然痛くない、と思いながらそれを取った。不動くんの成績は多分、夏から始めた人にしてはとてもいいと思う。クラスも帝南が射程圏内に入っている一番上のクラスだ。わたしはその一個下。焦るなと言われたって、もう後期だし、焦る。このクラスのまま帝南を狙うのはかなり厳しい。頑張らないと。


「おい佐久間、源田。おまえらどうだった?」


不動くんが近くにいた二人に声を掛けると、顔をしかめた佐久間くんと苦笑いの源田くんが振り返った。そしてすぐさまこちらに近付いてき、佐久間くんが不動くんの成績表を奪い取った。


「…チッ」
「舌打ちしてんじゃねーよ。おまえはどうだったか聞いてんだっつの」
「佐久間今回失敗したんだと。触れないでやってくれ」
「源田貴様ァ…偏差値ボーダーライン超えた奴に同情されたくねえよ」
「え、すごいね」
「去年から源田は頭よかったろ」


そうだったっけ。中学じゃ順位とか貼り出されないから知らなかった。あんまり点数の話とかしなかったし。すごいなあ源田くん。尊敬の眼差しを送っているとその隣の佐久間くんが白けた目をわたしに向けた。


はどうだった?」
「こんな感じ」
「あ、俺もこんな感じ」
「ほんと?やったー」
「喜ぶな。俺たちこんなんじゃ絶対合格なんかできないからな」
「い、いえっさ」


でも佐久間くんはコケてこの結果だったんだよね、じゃあ成功も失敗もしなかったわたしがそれと同じ結果って、やっぱりまずいよね。返してもらった成績表を強く握った。あと四ヶ月。

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