引っ越してきた先がお隣さんだったからかもしれない。どう見てもヤンキーとしか言えないモヒカンの姿を見て始めは怖え!と思ってしまったけれどそんなのは一晩寝たらどうでもよくなってて、学校での彼を何かと目で追っていた。
サッカー部だけどクラスメイトとはもちろん、部活の人とも滅多にしゃべらないその人はほとんどいつも一人だった。まだどこにも馴染めていないのだろうけどそれにしたって彼はお世辞にも周りの人と交友関係を築く努力をしているようには見えなくて、元々のキツイ見た目とキツイ言動は彼を周囲から孤立させた。そんな姿をわたしはひたすら見ていたのだ。当時のわたしはその何も言わない背中を見て、庇護欲というか、齢十四歳ながら母性本能というものに目覚めていたのだろうけど、それを自覚することはなかった。

お隣さんで、同い年で同じクラスで、そんな関係性がどうしても偶然とは思えなくて、実際偶然なんだけど、もしかしたら何かあるんじゃないかと運命めいたものを期待していた。中学二年とはそんな風に夢見てしまうお年頃だったと言えよう。

わたしとあまり変わらない背、平気な顔でいつも一人だった不動くんを、お隣さんのわたしは一人にしちゃいけないと思ったのだ。


?」


放課後、サッカー部が終わるのを待ち伏せしていると、同じクラスの佐久間くんと源田くんが校門から出てきた。二人は揃って不思議な顔をしてわたしを見たけれど、何でもないように、友達待ってるのと嘘をついてやり過ごした。サッカー部って一緒に帰るんじゃないんだなあ。みんなばらばらだし。
でもそのばらばらの中にも不動くんはいなかった。まだ残っているらしい。もしかしたら一人じゃないかもしれないけど一緒に残るほどの仲の人がいるとは思えない。
佐久間くんたちも見えなくなってわたしはまた校内に入った。グラウンドまで小走りで行くとそこにはやっぱり不動くんが一人で、まだ練習を続けていた。わたしはもう、なんというか、あの感じは今でも覚えているのだけど、言葉にはできなくて、堪え切れずに大きな声を出していた。


「不動くん」


背中を向けていた不動くんはボールを足で止め、振り向いた。その目は誰も受け入れてくれないような、大きくて鋭い目だった。


「なに」


低い声がそう問い掛けてから、わたしは、はて何を言おうとしてたんだっけ、と思った。意味もなく口をぱくぱくしたけど不動くんが顔をしかめて舌打ちをしたのを境に止めた。怒らせるつもりはなかったのだ、わたしは。
そうだ思い出した。


「お友達になろう」


「は?」このときの不動くんの馬鹿面は一生忘れられないと思う。全く予想外だと驚いた表情が言っていた。……初めて言われたのかも知れない。でも言っとくけどわたしもこのとき初めて友達になろうと言ったのだ。あんまりこういうの慣れてない。友達って言わずとも自然になるものだと思ってるけど言われたら嬉しいものだとも知ってる。言わずとも…だけど一匹狼という表現がぴったり適切すぎるこの人には宣言しないとなれないと思った。多分間違ってない。
心臓がばくばくしてる。不動くんはいつの間にか眉をひそめていて、わたしがあれ?と思う前に彼の方が首を傾げた。


「…ていうかおまえ誰?」


なんと!

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