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「シカマル!!」


突然玄関の方が騒がしくなり眉間に皺を寄せる。朝っぱらからなんだよと思いつつ声の主から大体のことは予想がつく。あーせっかくの休日だってのに…。手で頭を支え寝転がったままはあ、と溜め息をつき耳をすませているとどうやら足音は二つであることがわかり、特徴的なそれは同時に誰であるかも確信させた。
バタバタと床を鳴らす音が俺の部屋の前で止まったと思ったら間髪入れずに扉が開かれた。見上げると、予想通りの見慣れた二人が立っていた。


「なあにのん気にゴロゴロしてんのよ!」
「まあまあ、いの落ち着いて…」
「アンタも何か言ってやんなさいよチョウジ!この腰抜けに!」
「はいはいわーったから。とりあえず一旦落ち着けっての」


まともに話せねーよ。上体を起こしどーどーと宥めるとキッと睨みつけられた。相変わらずこえー顔すんなこの女。目を逸らし本日二度目の溜め息をつく。その間にずかずかと入り込んできたいのは腰に手を当て俺を見下ろし、何を言ってくるかと思いきやしばらくしたのち額に手をやり、呆れたようにはああと溜め息をついた。いよいよ言いたいことがわかってしまう。


「シカマル…アンタねえ…」
「…のことだろ」
「何よ、わかってんじゃない」


まん丸に見開いたいのにバツが悪く再度目を逸らす。そりゃわかるわなあ。こいつは確かに怒りっぽいが何をしたらその怒りの引き金を引くのかぐらい長年チームを組んでたら大体見当つくようになるし、加えてこいつの呆れた様子から直接いの自身に何かが起こったわけでもないのも見て取れた。…つーか、最近あったことでこいつが俺に怒鳴りつけてきそうなことっつったら、のことくらいしかねーっていう。
それがわかっててこの二週間何もしなかったのは単に時間が解決すると思ったからだ。正直あのときなんでがあんな顔したのかわからなかったし、あいつの言ったことも意味不明だったからとりあえず今度会ったときにでも聞いてみりゃーいいかぐらいにしか思っていなかったのだ。なんとなく胸にしこりが残っているのも、時間が経てばすぐになくなるだろうと。


「なら早く仲直りしなさいよね。様子見ようと思って口出さないでたのに、任務から帰ってもアンタ何にもしてないし」
「仲直りって…べつに喧嘩したわけじゃねーよ」
「心当たりあるくせに何言ってんの」


いのがちらっと動かした視線を追うとその先には机の上の紙袋があった。にもらったもので、手を付けようにもあのときの彼女の表情が思い出され、なんとなく気が引けて置きっぱにしていた。それを見て何か言いたげないのに無意識に顔をしかめる。
多分、は何か勘違いしているんだろう。あの意味不明な切り返しはきっと俺の言ったことをどうにか変な解釈をしてロクでもないことを考えたから出てきた台詞だ。あいつはときどきそういう無駄に後ろ向きな読み取り方をするから今回もきっとそうだろう。そこまで推測して、大した心配は無用だろうとの結論に至ったのだ。それでもお裾分けと言ってもらった袋を見ると未だに後ろめたい気持ちになるのは、少なからず傷つけた気がしているから、なんだろう。
それから目を逸らすと、いつの間にか座布団に座り込んでいたチョウジが少し困り顔で俺に向いた。


「僕はさっきいのに聞いただけだけど、そういえば最近シカマルと一緒にいないよね」
「はあ?べつに元々そんな頻繁に会ってたわけじゃねーよ。下忍になってからは特に、」


言いながら、座り込むいのが白けたツラをしているのに気が付いて無性に居た堪れなくなる。逃げるように身を引き、弁解のようなことを口にする。


「…つか、だからそういうのって滅多にあるもんじゃねーと思って言っただけだっつの」
「アンタ肝心なことには全っ然気付かないくせにそんなとこだけは気になんのね…」
「シカマル、さすがにが可哀想だよ」
「チョウジまで言うのかよ…」


はああとがっくり項垂れたいのに溜め息をつきたいのはこっちだと思う。が、これ以上機嫌を損ねさせるとますますめんどくさいので沈黙を選ぶことにする。「そりゃーのネガティブもだいぶ問題だけど。それはちゃんと本人に言っといたわ」いのは腕を組みそう言うと、あとはあんたが重い腰上げなさいよと付け足した。付け足しというには随分な物言いだったがいつものことだから仕方ない。
そういやこいつ、昔から俺との仲勘繰ってたよな。めんどくせーから適当にあしらってたけど。

と会えなくなっちゃ嫌でしょ?」……あー、はいはい。がそう言ったんだな。そこでようやくが俺の台詞をどう解釈したのかがわかった。ったく、嫌味なんて言うわけねーだろ。


「ほーら、わかったんなら今すぐ行きなさいよ!第四演習場にいるから」
「…おー」
「男見せなさいよー!」


…何について背中押してんだこいつ。ジト目で見遣り立ち上がる。


「つか、おまえらは帰んねーのかよ」


俺が部屋を出ようとしてもそこを離れる様子のない二人に問い掛けると、そいつらはぱちくりと目を瞬かせたあと、お互い横目でアイコンタクトを取ったと思ったら、にんまりと笑ったのだった。