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任務の報告も終わり自由の身となった俺はどこに寄るでもなく帰路についていた。まだ日は高いから、帰ったら昼寝か、縁側で将棋を指すのも悪くない。ぼんやり考えているとあっという間に家に着いていて、どっちでもいいやと思いながら敷地内に一歩踏みだ、そうとした。


「シカマル!」


突然呼ばれた声に足を止める。そのまま聞こえた方へ向くと、俺が来たのと違う道から走ってきた彼女は一メートルほど空けたところで立ち止まった。


「おお、
「ちょうどよかった!」
「? 何が?」


笑顔ではい、と渡されたのは小さな紙袋で、何か入っているんだろうが外からじゃもちろん中身はうかがえず、しかし見たところ軽そうな物のようだった。訝りながら受け取り中を覗くと、「…酢こんぶか?」思わず疑問形にしたが、堂々と箱に書いてある文字は間違いなくそれだった。「うん!」勢いよく頷いたは嬉々として、今日の任務がそこの店の荷物運搬の手伝いでお礼にこれをもらったことを話した。確かに、紙袋には店のロゴとマークがプリントされている。


「シカマル酢こんぶすきだったよね、お裾分け」
「もらっちまっていいのか?」
「うん!すごく気前のいい依頼人のおじさんで他にももらったし、…シカマル喜ぶかなと思って…」
「おーサンキュー。すげー嬉しい」


率直な感想を漏らすとは眉をハの字にして笑った。こういうとき、もらった俺よりの方が嬉しそうだといつも思う。いつも思うから元々そういう笑い方をする人なんだと納得してるからいちいち突っ込んだりはしない。袋を片手に持ち直す。空いている片手はポケットに突っ込み、片足に体重を乗せて楽な姿勢を取った。


「めんどくさかったけど、こういうのあるからDランク任務も悪くねーよな」
「うん、わたし結構すきだよ。…あ、そうか、シカマルはもうやる機会ないもんね」
「まあな。ときどき恋しくなんぜ」


Dランクは戦闘もなければ負傷の危険もない難易度の低い任務だ。下忍時代よくやっていたそれらを思い出し、大して昔のことでもないのに懐かしい気分になる。いのとか文句垂れてたよなあ。ま、俺も人のこと言えなかったけど。
がそういった任務を好むのはなんとなくわかった。アカデミー時代からのんびりした奴だったし好戦的でもなく、どちらかと言うと俺みたいに消極的なタイプだった。いのに懐いていたのが大きな理由だろうが、そういうところで気が合ったとはだべったり何かとくだらない話をよくしていた。


「そうだ、あのさ、今日ひま?」
「おう」
「じゃ、じゃあ、将棋やろ!わたしこの前お父さんに勝ったんだよ」
「おーいいぜ」


それが卒業した今でも続いてるってだけなんだが。こういうのってなかなかねーよな。ふと思った。


「おまえってよく俺のとこ来るよな」


だから何となく呟いた台詞が、まさかの時間を止めるとは思っていなかった。