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「どうして気付かないんだろうね」


そう返したチョウジは串団子を豪快に頬張るとすぐさまもぐもぐと口を動かした。わたしはそれに呆れた溜め息をついて、手元に置いてある桜餅に視線を落とした。


「ほんと、アンタみたいな鈍ちんにもわかんのにね…」
「いの、その桜餅いらないならちょうだい」
「いらなくないわよ!ていうかアンタはそれさっき頼んだばっかでしょ!」


追加注文した団子の盛り合わせをビシッと指差しながら声を上げる。しかし実際それも残り一本となっているものだから、相変わらずの胃袋の大きさには呆れるばかりだ。ああ、と頭に手をやり項垂れる。修業終わりにストレス発散しようと思って来たのに溜まってくんじゃ意味ないどころか逆効果じゃない。やっぱりそこら辺歩いてたからってチョウジを捕まえたのが間違いだったかしら。
お店に入ってすぐに頼んだ桜餅は依然手をつけられず、食欲は目の前の大食いに吸い取られていっていた。チョウジの頼んだ団子の盛り合わせはこの間と会ったときに彼女が食べていたものと同じで、注文するに驚きながらも何か嫌なことでもあったのかと聞くと、彼女は首を振って「すごいお得だよねこれ」と嬉しそうに目を輝かせていた。しかし結局食べきれず、残したのをチョウジが処理していたのは記憶に新しい。それを思い出したのはチョウジも同じだったらしく、「そういえばこないだとシカマルがしゃべってたの見たよ」と切り出したので、二人でそれについて話していたのだ。主にシカマルの鈍感さについて。


「…チョウジ、シカマルに何か聞いたことある?」
のこと?ないよ」
「そうよねー…」
「余計な口出しすんなって言ったのいのだよね?」
「そうだけど…わたしからしたらシカマルがはっきりしないせいでイライラすんのよ」
「なんでいのがイライラすんの」


「わたしが一番二人のこと見守ってきたからに決まってんでしょお?!」ダンッと勢いよくテーブルを叩くとチョウジがびくっと肩を跳ねさせた。それには突っ込まず外を向いて頬杖をつく。アカデミー時代からが追い掛け続けるほどの魅力がシカマルにあるとは思えないけれど、まあそれなりにいいところがあるのも事実だから応援している。適度な距離をうかがいながら接する彼女はシカマルに嫌われないよう必死だ。何気ない一言で飛ぶように喜んではわたしに報告してくるの話を聞くのは楽しいし、アカデミーを卒業してからも演習やお出かけに誘って二人の様子を見ているのも楽しかった。…んだけど、そろそろいい加減どうにかなりなさいよとも思うわけだ。特に「あの鈍感め…」さっさとはっきりさせなさいよ。


「ハタから見たらがシカマルをすきだってことすぐわかるのにね」
「ほんと!わかっててアレだったらぶん殴る」


の件でわかったことだけれど、シカマルは自分のことにてんで疎い。本人は隠しているつもりらしいけれどわたし含め同期の女子はすぐに気付いたし、シカマルと親しいとはいえ鈍いチョウジにもバレている。分析力に長けているとの評価を受けているにも関わらずこんなすぐ近くのことにも気付かないのだから、奴に関してはそう言うしかないだろう。
だいたい、脈がないわけでもないと思うのよ。チョウジはなんかボロが出そうだから黙ってるように言ってあるけど、わたしは今まで何度も探りを入れたことがある。答え自体は決して芳しくはなかったけれど、男が女がとうるさいシカマルにしては不満げな様子もなくと接しているし、何よりといる彼は随分気楽そうだ。それでも幸せそうなものだから見ていて気持ちがいい。だから心配なんてしなくてもうまく行くんじゃないかと思ってはいるんだけど、どっちの背中を押してもなかなか動き出さないもんだからほっとけないのだ。

とりあえず、もしもシカマルがの気持ちに気付いててあんなまどろっこしいことしてるんだったら、問答無用で殴り飛ばすわね。拳を作るとしかしチョウジは首を傾げた。


「でもシカマル、わかっててもアレだと思うけど」
「はあ?」


なによ、ほんとにの気持ち知ってもあんな態度取るって言いたいの?そんなの、いよいよ殴るしかないじゃない。