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おつかいの帰りに通り掛かった道でたまたまシカマルを見つけた。わっと心臓が高鳴るのを感じながら向かいから歩いてくる彼に駆け寄ると、わたしに気付いたシカマルはおお、と少しだけ目を見開いた。


「シカマル任務帰り?」
「いや。火影様んとこ行ってきただけ」


そう言って軽く持ち上げて見せた書類に、なるほどと頷く。中忍になると小隊長を任されることもあるらしいし何かと火影様とのやりとりも多くなるのだろう。まだ下忍のスリーマンセルを組んでいるわたしはそういった連絡事は全て先生が請け負ってくれるので苦労はわからないけれど、シカマルのことだからめんどくさいと思ってるんだろうな。「は?」「おつかいの帰り道だよ」同じように野菜の入った袋を見せるとシカマルはああ、と頷いた。わたしは視線を再び落とし、彼が持っている書類を指差した。


「それ、任務か何か?」
「いんや。中忍試験の要綱」
「え、シカマル試験官なの!」
「補助員だけどな。駆り出されるっぽい」
「へえ、前回受かったばっかなのにね」
「ホントだぜ。人手不足らしいから仕方ねーけどよ…めんどくせー」


「ははは。がんばれー」間伸びした声で応援するとシカマルはふっと力の抜けた笑みを浮かべた。冗談めかしたわたしへの反応なのに、なんだか照れてしまう。思わず目を逸らし、思考を巡らせる。…ええと、…どうしようか。まだ一緒にいたいけど、話すこともないし帰った方がいいかなあ。


「そういやはどうすんだ?」


パッと顔を上げる。シカマルから話を振ってくれたのが嬉しかったのだ。まだ帰らないでいいと言ってくれてるみたいだ。しかし肝心の質問が何のことかわからなくて、しばらく考えてから結局首を傾げた。「何が?」するとシカマルは呆れたように眉間に皺を寄せた。


「何がって、中忍試験だよ。出んのか?」
「あ、ああ。今回は出ないよ」


首を振って答える。年二回開催されるそれの推薦は先日先生からもらったけれど、前に何も考えずに出て痛い目を見たこともあって見送ることを決めていた。あれからまったく変わっていないわたしが出たってまた何もできずに終わるだけだろう。今回のは班単位でなくてもエントリーできるというのは確認済みなので、他の二人に迷惑を掛けることもない。心底ほっとしながら辞退を申し出たのを、走馬灯のように思い出す。それからあのペーパーテストや、死の森でのサバイバル演習。本当に、何もできなかった。「そーか」なにとなく息を吐いたシカマルに、やや沈んだ気分のまま首を傾げる。


「出るって言ったら何か教えてくれたとか?」
「ばーか、んなわけねーだろ。少し気になっただけだっつの」
「あはは」


そりゃあそうだ。否定は当然予想していたものだ、けれど、予想外なおまけまで投げ込まれて内心どきばくである。うまく笑えているだろうか。
少し気になっただけって、そういう一言がわたしに大ダメージを与えてること、シカマルは知らなさすぎる。暗くなっていた気持ちはあっという間に吹っ飛んで、すっかり元気になった自分はよっぽど現金なやつだなあと思う。わたしは単純だから、シカマルが気に掛けてくれるだけで喜んでしまえるのだ。気付いてないんだろうなあ。気付かれても、困るけど。


「…ま、急いでなるもんでもねーし。おまえはおまえのペースでやりゃーいいと思うぜ」


シカマルが言うと途端に自信が湧いてくるのはどうしてだろう。成長してないからなんて情けない理由で逃げとも取れる選択をしたのに、正しい判断をした気になる。うんと頷いて、袋の持ち手をぎゅうっと握った。
君に恥じる忍者にはなりたくないよ。だから頑張ろうと思える。