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無事中忍試験に合格したのお祝いにと食事に誘ったのは昨日のこと。当日の今日、料理店ののれんをくぐりながら、あとからサクラとヒナタも来るわよと言い向かい合って席に着く。目の前の彼女は肩をすくめ、ありがとうと笑った。昨日から何回言われたことかしら。思いながら呆れた笑みで返し、温かいお茶が運ばれてくるととりあえずと音頭をとって乾杯した。


「これで同期全員…あ、ナルトとサスケくん以外は中忍ね」
「お待たせしました…」


ふふんと鼻で笑い湯呑みに口をつける。今回中忍になったのは何もだけじゃないんだしそんな縮こまらなくていいのにとは思うけれど、毎度のことで言っても直らなさそうだから突っ込まないことにする。…そんなことより。


「で、ねえ。今どうなってんの」
「え」
「シカマルよシカマル!アンタらまだくっ付いてない…のよね?」
「な、ないよ」
「なんでよ!あんなイチャイチャしといて!」


そう、このとシカマル、ハタから見てると付き合ってないのがおかしいくらいにイチャイチャしているのだ。そりゃーあのシカマルとこのだからバカップルみたいなことはしないけど、やたら一緒にいるとこ見るし何人かで会っててもいつも近くにいるし、とにかく友人って枠には収めてられない間柄にしか見えない。報告されないだけでとっくのとうに付き合ってるんじゃないかと思い問い詰めてみても双方首を振るばかりで、そのくせ雰囲気はいつもいい感じなのは本当に理解に苦しむ。半ばキレ気味のわたしに困った様子のはそんなことないと思うけど、と苦笑いを零し、ゆっくりと湯呑みを置いた。


「シカマルは気を持たせるのがうまいよね」
「……はあ?」
「でもわたし、今のままで十分幸せだから、大丈夫だよ」
「もう、そんなこと言って、」


誰かに取られたらどうすんのよ、思わず言おうとした台詞を飲み込む。…余計な心配させない方がいっか。のことだから変に落ち込んでギクシャクしかねない。わたしは二人がこのままでいいなんて全然思わないけど、わたしがしてあげたいのは背中を押すことだから、これは違う。だんだんと二人の距離が縮まっていくにつれてわたしも口を出すのを減らして見守るようになったのはそういう気持ちがはっきりしてきたからだ。お互い自覚してるのに変なところで踏みとどまっちゃって、もう、じれったくてたまらないんだから。
急に黙ったわたしを不思議に思ったらしいが首を傾げたので、適当に誤魔化そうと作り笑いをした。瞬間、突然何者かが彼女に突進してきた。


「よーーーー!」


その人物は勢いよく座席に滑り込んできたと思ったら持ち前の軽い身のこなしを発揮したらしくやたらスムーズに着席してみせた。予想外だったがもう慣れてしまった登場に思わず顔を歪める。同班だからか何か知らないけれどやたらスキンシップの激しいそいつはにこにこしながら気軽にの肩に腕を回して引き寄せている。で少し驚いた様子を見せつつも挨拶を返していて、ああこういうのが、と我ながら珍しくシカマルに同情した。前にこいつをネタにシカマルを焚きつけようとしたのを少し謝りたい気持ちになる。すきな子のこんなシーン見せられたらそりゃー、気が気じゃないわよねえ。


「ちょっとチエ、セクハラやめなさいよ」
「おーいの!今日も可愛いね」
「ハイハイわかったから早く!」


強く言ってようやく離れる。はあ、と溜め息をつかざるを得ない。アカデミー時代から女子にばっかり構っていたチエは卒業後も相変わらずらしい。誰とでも友達になれる明るさは褒めるけれど、この軽いところはどうもすきになれない。かわいそうに…と班編成が発表されたときは思ったものの彼女はそんなことよりシカマルと一緒じゃなかったことにひどく落ち込んでたみたいだったから、当事者のわたしは上手い言葉を掛けられなかった。
それでも話を聞く限りじゃそんな心配も余所にもう一人のメンバーを含め班内の仲は良好らしいので特に気にしていなかったけれど、やはりいざ目の当たりにすると強烈なことには変わりなかった。


、アンタももっと強く言いなさいよ…」
「う、うん」
「いの、今度飯行こうぜ!」
「嫌に決まってんでしょ!」
「つれねーなー。あ、じゃあ俺らんとこと十班とでさ!……。十班てほか誰いたっけ?」
「シカマルとチョウジだよ」
「おーオッケー。六人で行くか!」
「…はあ……。食べ放題にしてよね」
「やった!んじゃ、いい店探しとくなー」


嵐のような男が去って行きようやくほっと息をつけた。昔よりパワーアップしてる気がするのは気のせいだと思いたい。あんな強烈なキャラと長年チームを組んでるからかすっかり慣れた様子のは労わるように大丈夫かと問うてくる。あれに肩回されるのはへっちゃらなのに、シカマルと隣座るだけで顔赤くしちゃうんだから、この子は可愛いなと思う。


「そうだ。いのちゃん、さっき何言おうとしてたの?」
「え?ああ…、…サクラも手かかったけど、アンタもなかなかねって」


本当は違うけど別の言葉に差し替えさせてもらった。小さい頃はいじめられっ子だったサクラは今じゃ見る影ないけど、は現在も絶賛ネガティブと隣り合わせだ。ヒナタだってあの引っ込み思案から変わってってるんだから、アンタもそろそろ卒業しなさいよね。思いながら、気分は案外悪くなくて、きっと口は笑っているんだと思う。頬杖をついてを見遣る。しばらくきょとんとしたあと、それからやっぱり肩をすくめたは意外にも眉尻をへにゃりと下げて笑っていた。


「ありがとう、いのちゃん。いつもごめんね」
「謝んなくていいのよ。こっちだって楽しんでるし」
「うん、でも、いつかちゃんとお返しできたらなと思うよ」


「チョウジも、いつも見守ってくれてるよね、わかるよ」太ももの上で綺麗に揃えられた手をテーブル越しになんとなく想像する。そうよ、わたしたち、アンタたちのことずっと応援して見守ってるんだから。だから報われなさいよって言ってんの。これだけ強く言っても動き出さないんだから、アンタらほんと、足接着剤で止められてんのって、思うくらいよ。
目を伏せたは静かな笑みを見せ、少しだけ声のボリュームを落として続けた。


「…シカマルも。わたしなんかといてくれるの、ほんとうに、」
「……」


の空気に当てられて、少し泣きそうになる。まさかそんなわけにはいかないから、わたしは呆れたように溜め息を吐く振りをして気持ちを落ち着かせるのだった。
ああもう、わたしあと何回背中押せばいいのよ。べつにいいんだけどね、もうすぐでしょ、きっと。そしたら、いざそうなったら、ちょっとさみしくなるのかもね。きゅっと口を結んで、口角は上がっていた。