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部屋での準備が一通り終わり、まだ時間もあることだしと家を出た。一時間くらいなら里をぶらぶらしてれば潰せるし、お買い物はできないけれどお店をひやかすのもいい。今日は随分と過ごしやすい気温で助かるなあと思いながら、商店街への道を歩いていた。
途中、一楽の前を通りかかったところでふと、ナルトのことを思い出した。随分前、彼は三忍の自来也さまと共に修業に出て行ったきり音信不通となっている。賑やかな彼がいなくなって最初は随分と寂しい気持ちになったものだ。ナルトはアカデミー時代シカマルと授業を抜け出したり補習を受けたり何かと関わっていたから、直接話したことはあまりなかったけれどよく見ていた。わたしの記憶は大体がシカマルを中心に残っているからそういう印象しかない。いいやでも、ナルトはヒナタちゃんのすきな人だ。ヒナタちゃんはすきな人が遠くに行ってしまってとても悲しいだろうに、彼を目標に修業に励む頑張り屋さんなのだ。そんな姿を見てわたしは応援したいと思ったし、彼女をとっても尊敬した。がんばれ!と拳を二つ作って激励するとヒナタちゃんは顔を赤くしてありがとうと頷いた。可愛い人だなあと思う。あれから伸ばしている髪の毛はもうすぐ腰に届きそうで、まっすぐさらさらしたそれは日に当たって頭に天使の輪を作っていた。
そうだ、今度お茶に誘おう。いのちゃんやサクラちゃんも誘ってみんなでお話するのだ、楽しみだなあ。思いながら軽い足取りで商店街のアーチ看板をくぐろうとしたところで、後ろから声が掛かった。


?」
「、あ、シカマル!」


振り向くとシカマルがいた。もちろんすぐに駆け寄って、近くで立ち止まる。少し驚いてる様子を見るとわたしを見かけたことが意外だったようだ。でもどちらかというと、こんなところでシカマルに会えたわたしの方が驚いてると思うよ。


「よお」
「やっほー。珍しいね、こんなところに」
「チョウジと向こうの茶屋で待ち合わせしてんだよ。つかおまえこそそんな格好で何してんだよ」
「あー、」


なるほどと納得する。どうやらシカマルが驚いたのはわたしがここにいることじゃなく、わたしがこんな格好でここにいることにだったらしい。それならわかる、だってわたしは今見るからに任務の準備万端といった出で立ちをしているのだ。確かに商店街に来るような格好じゃないなあ。肩をすくめて、「このあと任務だからそれまで時間潰そうと思って」と説明をするとシカマルも納得したらしく、なるほどなと笑みを零した。


「どんくらい時間あんだ?」
「えっとね…十五分くらいかな」
「案外ねーんだな」
「あはは、よく考えたらなかった」


商店街は正門と反対方向だし、ここから結構時間もかかるので出発の時間を考慮するとそれくらいしかなかった。もっとゆっくりするつもりで来たのにこれじゃあまともにひやかすこともできないだろう。どうしようかな、と少し考えて、あっと思いつく。そのまま顔を上げるとシカマルは首を傾げた。


「あのさ、シカマルの行くとこまで付いてっていい?」
「んあ?あー、いいぜ」


やった!思わず飛び跳ねそうになる。それからシカマルの、商店街はいいのか?との問いに思いっきり頷く。だってね、シカマルと商店街どっちを選ぶかなんて、そんなのわかりきってることじゃあありませんか。

二人並んで歩く道はとても穏やかだった。シカマルが待ち合わせているお店はここから十分といったところで、位置も正門に近づく方向だったため丁度よかった。まっすぐ一本道を歩き辿り着くとシカマルは店内を覗いてみて、席に余裕があるのを確認すると外にいるわたしの方へ戻ってきた。約束の時間までまだあるらしく、わたしが出るまで外にいてくれるのだそうだ。嬉しいなあ優しいなあと思いながら顎を引いて、口がにやけてしまうのを抑える。あと数分だろうけれど、任務を頑張るためにもシカマルを補給させていただこう。そう思い目の前のシカマルへ口を開いた瞬間、「おーー!」大きな声が前の方から聞こえた。もちろんシカマルではない。同じように目を見開いていた彼の後ろをひょこっと覗いた。


「あっ、チエくん!」


向かいから走ってきたのは同じ班のチエくんだった。バッとシカマルも振り向くと彼の姿がよく見えるようになり、シカマルの隣で立ち止まると「よっ!」チエくんはシカマルに軽く挨拶をしたあとわたしに向いて腕をポンと叩いた。


「それよりやべーよ、遅刻すんぜ」
「え、」
「ほら!行くぞー」


思わずぎょっとしてしまう。なんとチエくんは、進行方向へわたしの横を通り抜けようとした瞬間、前からわたしの腰に手を回したのだ。「え、わっ、」突然後ろ歩きを余儀なくされもたもた足を動かすとすぐに手を離し見事に身体を反転させられ、今度は背中から腰に手を回してほらほらと連れて行かれた。以前から彼が女の子全員に対して紳士的であるのは知っていたけれど、さすがにこんなに密着されるのは初めてだったのでびっくりしてしまう。というより、恥ずかしい。あわわわと口もまともに動かせずされるがままのわたしだったけれど、せめてシカマルに挨拶したい、と思いなんとか振り向く、と、

え。

遠ざかって行くシカマルは、今まで見たことのないくらい、呆気にとられた表情をしていた。