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結局そのことについては一度も触れずうやむやにしたまま、祥吾くんとのやりとりが始まった。手段は電話だったりメールだったりして、内容はほんの些細なことだったけれど間隔を空けながらもなんだかんだ十二月まで続いた。福田総合のインターハイは祥吾くん欠場の試合で負けたらしく、それには何と言えばいいのかわからず流し、その後ウィンターカップ出場を決めたことをさつきちゃんから聞いたときには電話で盛大に祝った。祥吾くんの応対は相変わらずだいたい冷めていたけれど、ときどき電話口から楽しそうな笑い声が聞こえるときがあって、それが嬉しかった。

そしてウィンターカップ本戦、桐皇が初戦の誠凛戦で敗退してしまった。きっとインターハイみたいにいいところまで行くんだろうと思っていたから本当に驚いた。思わず聞き返しても結果は変わらず、どこかすっきりしつつもやっぱり悲しそうだったさつきちゃんに対してそれからその話題について触れることをためらっていたのだけれど、ある日彼女がそんなことなどまるで気にしていない様子で話を振ってくれたので驚いた。


「福田総合勝ったよー!ベスト8入りで、次は準々決勝!」
「え、そ、そうなんだ!」


勝敗結果を本人に聞くのは気まずく、でもさつきちゃんに聞くわけにもいかないからどうすれば知れるんだろうと悩んでいたのだけれど、普通に聞いてよかったようだ。全然無理をしている様子もないさつきちゃんに、ちゃんはショウゴくんの結果知りたいと思って、と言われ、わたしのことを思ってくれているのだと気付いて嬉しかった。教えてくれてありがとうと返すとううん、と彼女はいつもと同じ笑顔で笑ってくれる。次の相手はきーちゃんだからきっと面白くなるよ。わたし青峰くんと見に行く約束してるから、ちゃんも一緒に行こうよ!そう言ったさつきちゃんに頷いた。祥吾くんと連絡は続いているものの、会うのはインターハイぶりだ。楽しみだなあ。「そうだ。えっと、スコアはねー…」さつきちゃんはこの間と同じノートを取り出しぱらぱらページをめくった。さすが敏腕マネージャーだ、ぬかりないなあと思いながら待つ。そして、そこに書かれているスコアと祥吾くんの得点数を聞いて、わたしはおお、と感嘆の声を上げた。


「祥吾くん大活躍じゃん!すごいなあ」


ベスト8を決めた三回戦で、福田総合の得点のほとんどが祥吾くんによって決められたものだったのだ。ウィンターカップって県の代表が出場してるんだよね、それなのにまた独壇場って、やっぱりすごく強いんだなあ。思わずテンションが上がり祥吾くんを絶賛していると、目の前のさつきちゃんにふふっと笑われてしまった。あ、はしゃぎ過ぎた。アホみたいだったかな、と恥ずかしくなって肩をすくめた。


ちゃんって本当にショウゴくんのことすきだよね」


ピタリと固まる。「……え、」いきなり頭に冷水を浴びせられたような感覚だった。高揚していた気持ちが途端に凍りつく。……なんで、そんなこと。顔を上げ、さつきちゃんを凝視する。至って自然な笑顔だ。
…祥吾くんのことはすきだ。顔を合わせば傷つくようなことを平気でたくさん言われ、その度嫌な気持ちになったり泣きたくなったりしたけれど、わたしは昔から今でもずっと、彼を一番仲良しな男友達だと思っている。それは間違いなかった。
だから、絶対にすきだ。けれどさつきちゃんが言っているのはそういう意味じゃない。だから、頷いてはいけない。


「ち、違うよ!」
「あれ、そうなの?」


わたしがそういう意味ですきなのは、ずっと前からあなただよ。そうとは言えず、きょとんと首を傾げるさつきちゃんに俯く。脈なんてない。わかっていた。
全然伝わっていなかったのだ。それを悲しいと思うのが証拠でしょ、わたし、…ねえ、答えなんてずっと前から出てたんだから、あのとき言ってしまえばよかった。


(…でも、もう、ここが……)


潮時、……いい加減にしないといけないのかもしれない。唇を噛む。全部投げて逃げ出したかった。誰かにぶつけたかった。