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 B級ランク戦初日である今日の実況は風間隊の三上だ。オペレーターの女の子が考案し前シーズンから導入された実況解説システムは、隊員全体の戦術向上にとても役立っている、らしい。確かにただ試合を見るより、隊員の講評を聞けるのは為になるもんなー。
 ランク戦の説明を解説役のA級隊員とした三上は最後に『今シーズン初出場の佐久間隊が気になるところですね。彼女たちの実力に注目です!』と締めた。その様子を観覧席の最後列から眺めながら、手持ち無沙汰の両手を頭の後ろで組む。


「秀次的にはどうよ」
「あまり期待はしていない」
「おいおい……」


 隣に座るうちの隊長は仏頂面のまま顎を引いた。本当に一ミリも興味がないらしい。見張り役のオレが通路側を陣取ってなかったら今頃何食わぬ顔で退席してたに違いない。


『さて、三チームの転送が完了しました!試合開始です!』


 大画面に戦闘員らが映し出される。全チーム三人部隊らしい。下位グループでこそあれ今日がデビュー戦の佐久間隊はどう動くのか、個人的には他の観戦者と同じく割と楽しみにしてるのだが、当の秀次は至極どうでもよさそうに黙ってモニターを眺めている。そんな顔で見てたらも不憫だろうに。

 秀次を試合観戦に誘ったのはという女子だ。同い年で同じ高校に通うそいつは、今年の春休みにB級のチームを組んだ。ボーダー入隊は高校入学と同時で、と同期のチームメイトは大体一年をかけて昇格した、ということになっている。一応。
 そんながなんでわざわざ秀次を試合に誘ったかというと、簡単に言えば以前から交流があったからだ。クラスメイトですらなかったが、の使用武器が弧月だったため同じ弧月使いかつ同い年の秀次に弟子入りを申し込んだのがきっかけだった(当然のように秀次はそれを一蹴したけど)。
それからの執念とオレらの面白半分の仲介で弟子入りとまでは言わずともときどきつるむようになり、なんやかんやで一年が経つ。つれない秀次と折れないの相性はそこそこいいらしく、二人が一緒にいること自体は見慣れた光景になっていた。


『佐久間隊佐久間隊長、勝負を仕掛ける!間宮隊が固まったところを変化弾で狙い撃ちだ!』


 佐久間隊の隊長は射手らしい。他の隊員にはスコーピオン使いの身軽な攻撃手と、ライトニングで援護を中心とする狙撃手を置いている。たちは入隊当初から仲が良く、チームを組むことも早い段階で約束してたらしい。とかいって、以外の三人は進学校の生徒だから直接関わったことはねえんだけど。なんだっけ、みんなで那須隊を目標にしてるんだっけ?
 まあそのとも二年になってからほとんど話してなかった気ィすっけど。それは仕方ねーか。


「結構いい動きしてんじゃん?」
「悪くはない。だがチームの連携に粗が目立つ」
「あー確かに」
「あいつは何をしているんだ……」


 秀次が冷めた表情で画面を追うも目的の人物は映らない。そうそう、と秀次がしゃべってるとこ見んのもかなり久しぶりだったな。さっき本部の入り口で見かけたときは随分ほっとしたもんだ。それにちょっと嬉しかったから、秀次に初戦を見てほしいって頼み込むの肩を持ったんだよなー。
 一番大きい画面ではンとこの攻撃手が相手チームの攻撃手にとどめを刺そうとしていた。スコーピオンを逆手に持ち大きく引く。


「ん?」


 しかしそれは彼女の一瞬の硬直により失敗に終わった。隙を逃さなかった相手に腹を蹴り飛ばされ派手に民家に突っ込む。


『どうしたんでしょうか?』
『目を押さえていますね』


 解説席も状況が掴めていないようだ。家の中で目を押さえうずくまる彼女は、それからカッと見開いた。『今レーダー情報いらないよ?!』何か大声でしゃべってるみたいだが、敵に向かって言ってるようには見えない。たぶん内部通話を通してるんだろう。
 連鎖するように、左下の画面で繰り広げられていた射手の対決に動きが出た。ンとこの隊長が相手を緊急脱出に追い込んだのだ。小さくガッツポーズした隊長は、それからヘッドフォンに手を当てチームメイトとの通話を始めた。


『え?狙撃手がこっちに来てる?接近戦?そんなわけないで――きゃ!』


 戸惑う様子の隊長の前に弧月使いの攻撃手が現れた。ふいを突かれ後退を余儀なくされる。身のこなしはなかなかのものだ。けど、バッグワームもつけてない相手に対して身構えもできなかったのは何でだ?


『普通に攻撃手よ!ちゃんタグつけ間違えたんじゃない?!』


 さっきからどうも戦闘員間のやりとりをしているようには見えない。となると、通話相手は一人しかいない。「……」思わず口が引きつる。今、佐久間隊に何が起きてんのか想像がついてしまった。こりゃー秀次キレんぞ。おそるおそる横目で見遣る。
 が、意外にもそいつは呆れた顔もせずじっと試合を見ていた。その目にはまるで、自分を無理やりここへ連れてきた彼女が見えているようだった。


「泣いてそうだな」


 ……ああ。思わず声を漏らしてしまう。

 姿が映ることはない。音声も入らない。けれど確かにいる存在。
 は仲間がB級に上がると同時に、オペレーターへ転向した。