こちらに歩み寄ってきたルッスーリアさんはベルくんの次にわたしの存在に気付いたようで、また「あら」と口を開けた。


ちゃんじゃない、うちに来るなんて珍しいわね〜」
「あ、あの」
「ボスに報告しに行ってたの」
「なに?とうとう入籍報告?」
「へ?!」
「ちげーよ変態オカマ。異動報告だっつの」


 とんでもない冗談に思いっきりびっくりしてしまった。いかんいかん、平常心。立ち上がり、ルッスーリアさんに向き直る。「あの、本日付でヴァリアーへ異動してきました。お世話になります」六十度のお辞儀をすると彼はンまあ!と驚きの声をあげたあと、よかったわねベルちゃんと、なぜかベルくんの背中を叩いた。それを思いっきり振り払いルッスーリアさんのすねに蹴りを入れるベルくん。


「ま、そーいうことだから。住むとこも俺らんとこ」
「り、了解よ〜…。…ところで隊服の採寸はしたの?」
「あー明日ね」


 そうか、隊服、ヴァリアーにはあるのか。本部では基本スーツだし、任務に出るときはそれにあった服を着るから、制服みたいなのは今までなかった。それは、ちょっとわくわくするな。


「あとは俺の部下ね。勝手に小間使いすんなよ」
「あらあら、独占欲の強い王子様だこと」


 二人の顔を行ったり来たりする。ルッスーリアさんにイスへ促したいのに二人のやりとりに隙が見当たらない。何か重大な内容な気がするけれど内心は自分が座ってルッスーリアさんを立たせたままなのはまずい、隣のイスに座ってもらおう、とそわそわするのでいっぱいで会話の内容はろくに頭に入って来なかった。うっすらと、わたしはベルくんの部下だということが再確認されただけだった。


「困ったことがあったら何でも頼ってね?それじゃ」
「は、はい!え、あの」
「私もボスに報告があるのよ〜。アフタヌーンティーはまた今度ね」


 なんと、わたしの意図はすっかり伝わっていたらしい。結局言いたいことは言えずやんわりと断られ、ルッスーリアさんはひらひらと手を振って食堂をあとにしたのだった。彼の姿が見えなくなると、伸ばしていた背筋を丸める。知らないうちに緊張してたらしく息をついたら妙に疲れた。ベルくんも、おそらくわたしとは違う意味で溜め息をついていた。


「あれの外堀は今さら埋めるまでもなかったな。時間の無駄」
「…ベルくん、外堀ってなに…」
が居づらくなんねーように幹部の連中におまえのこと教えとこーと思って」
「え、いや、それは」


 さっきの台詞はそういう意味で言ったんじゃないよ。わたしのことはもっと適当に扱ってくれていいんだよって意味だったんだけど。ベルくんと仲がよくて、多分ベルくんもそれでヴァリアーに連れてきたんだと思うけど、戦闘能力も最低限だし諜報活動もままならないペーペーの下っ端が、ベルくんの友人だからといって優遇されていい理由にはならない。実力でのし上がるくらいの気概がなければ。しかしそれも無理そうだ。
 ますます身を縮こめる。ベルくんが、わたしのことを考えてやってくれるのは嬉しい。でも落ち着かない。


「そりゃー幹部とかの肩書きあったら話ははえーけど、さすがにボスがくれるかわかんねーし」
「もらえると思ってないから大丈夫だよ…」
「そ?まあ諜報部隊っつってもほとんど単独で動くし。はボス…と、スクアーロ先輩から降りてくる任務に就く感じになんじゃね?」


 指揮系統はボンゴレ本部と同じだろう。わたしも直属の上司とは別に獄寺くんやツナくんから任される仕事をこなしていた。うんうんと頷く。「だからは周りの目気にしなくていーの。誰かにいびられることねーから」…そこに繋がるのか。


「あ、ありがとう…頑張る」
「ん」


 まだここの空気をよく把握できてないけど、早く馴染めるように頑張ろう。誰にも怒られたくないし、何よりベルくんに、連れて来なきゃよかったなんて絶対に思われたくない。


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